ひねくれ王子は私に夢中
秀司はテーブルの上に両腕を乗せ、窓の外に目をやっている。
雲間から光が零れ、濡れた庭を照らす光景を、彼はただ黙って見ていた。
(……どうしよう。言ってしまおうか)
心臓が早鐘を打ち始めた。
膝の上で握った手がじっとりと汗ばみ、顔が熱くなる。
近くの席の女子たちが笑い声を上げた。
文化祭についての話題で盛り上がっているようだが、いまの沙良には彼女たちの話の内容が耳に入ってこない。
(言わなきゃ。私から。見た目だけ変わってもダメだ。中身も変わらなきゃ。私は変わりたい。本当の意味で秀司に似合う女になりたい)
どんなに可愛く、ヒロインに相応しい子がいたとしても、迷うことなく沙良に一票入れると断言してくれたこの人に、想いを伝えたい。
「……あの、さ。お願いがあるんだけど」
「何?」
秀司が沙良を見ている。
真正面から。まっすぐに。沙良だけを。
「秀司は賭けようって言ったわよね。文化祭で踊り終えた後に拍手喝采を浴びるか、ブーイングを浴びるか。その賭けの内容、私が決めてもいい? もし……もしも拍手喝采を浴びることができたら……私が秀司の彼女に相応しいと、皆が認めてくれたら……」
ごくり、と唾を飲み込む。
頰は熱く、喉はカラカラで、心臓は暴れ回り、弱気な自分はいますぐ逃げ出したいと訴えている。
それでも強く両手を握り、勇気を振り絞った。
「……付き合って!!」
(言えたああああああ!!!)
沙良は自分自身にこそ拍手喝采を浴びせたい気分だったのだが――
「いいよ」
秀司は驚きもせず、至極あっさり了承した。
「…………………………。え?」
あまりにも自然な態度で言われて、沙良は一瞬、自分の気持ちを伝え損ねたのかと真剣に悩んだ。
(いや、私、ちゃんと言ったわよね? 付き合ってって)
「……いいの? 本当に?」
困惑して尋ねる。
「いいけど。どこ行くの?」
「そっちじゃないっ!!!」
まさか付き合うの意味を取り違えられているとは夢にも思わなかった沙良は全力でツッコんだ。
そして自分の言動を猛省する。
(私、そんなに拗らせてたのか……『付き合って』と言われて素直に秀司が告白と受け取れないのって、間違いなく私のせいよね……そうです私が全て悪いんです……)
瑠夏の冷たい目を思い出し、沙良は内心頭を抱えた。
「え? だって、付き合うって…………。!!?」
やっとその可能性に思い当たったらしく、コップに残っていた少量の水を飲み干そうとしていた秀司は突然目を見開いて固まった。
その手からコップが滑り落ちる。
コップはテーブルにぶつかって鈍い音を立て、わずかに残っていた水を零しながら転がっていく。
「!」
秀司はとっさに屈んで手を伸ばし、床に落下する直前でコップを空中キャッチした。
さすが秀司、酷く動揺していてもリカバリーは完璧だ。
「大丈夫?」
「ああ、寸前でキャッチできたし、ほとんど水は残ってなかったから大丈夫……っていうか、それより。何。いきなり。驚くだろ」
秀司はコップを元の位置に戻し、片手で顔を覆った。
指の隙間から見えるその顔はわずかに赤くなっていたりする。
雲間から光が零れ、濡れた庭を照らす光景を、彼はただ黙って見ていた。
(……どうしよう。言ってしまおうか)
心臓が早鐘を打ち始めた。
膝の上で握った手がじっとりと汗ばみ、顔が熱くなる。
近くの席の女子たちが笑い声を上げた。
文化祭についての話題で盛り上がっているようだが、いまの沙良には彼女たちの話の内容が耳に入ってこない。
(言わなきゃ。私から。見た目だけ変わってもダメだ。中身も変わらなきゃ。私は変わりたい。本当の意味で秀司に似合う女になりたい)
どんなに可愛く、ヒロインに相応しい子がいたとしても、迷うことなく沙良に一票入れると断言してくれたこの人に、想いを伝えたい。
「……あの、さ。お願いがあるんだけど」
「何?」
秀司が沙良を見ている。
真正面から。まっすぐに。沙良だけを。
「秀司は賭けようって言ったわよね。文化祭で踊り終えた後に拍手喝采を浴びるか、ブーイングを浴びるか。その賭けの内容、私が決めてもいい? もし……もしも拍手喝采を浴びることができたら……私が秀司の彼女に相応しいと、皆が認めてくれたら……」
ごくり、と唾を飲み込む。
頰は熱く、喉はカラカラで、心臓は暴れ回り、弱気な自分はいますぐ逃げ出したいと訴えている。
それでも強く両手を握り、勇気を振り絞った。
「……付き合って!!」
(言えたああああああ!!!)
沙良は自分自身にこそ拍手喝采を浴びせたい気分だったのだが――
「いいよ」
秀司は驚きもせず、至極あっさり了承した。
「…………………………。え?」
あまりにも自然な態度で言われて、沙良は一瞬、自分の気持ちを伝え損ねたのかと真剣に悩んだ。
(いや、私、ちゃんと言ったわよね? 付き合ってって)
「……いいの? 本当に?」
困惑して尋ねる。
「いいけど。どこ行くの?」
「そっちじゃないっ!!!」
まさか付き合うの意味を取り違えられているとは夢にも思わなかった沙良は全力でツッコんだ。
そして自分の言動を猛省する。
(私、そんなに拗らせてたのか……『付き合って』と言われて素直に秀司が告白と受け取れないのって、間違いなく私のせいよね……そうです私が全て悪いんです……)
瑠夏の冷たい目を思い出し、沙良は内心頭を抱えた。
「え? だって、付き合うって…………。!!?」
やっとその可能性に思い当たったらしく、コップに残っていた少量の水を飲み干そうとしていた秀司は突然目を見開いて固まった。
その手からコップが滑り落ちる。
コップはテーブルにぶつかって鈍い音を立て、わずかに残っていた水を零しながら転がっていく。
「!」
秀司はとっさに屈んで手を伸ばし、床に落下する直前でコップを空中キャッチした。
さすが秀司、酷く動揺していてもリカバリーは完璧だ。
「大丈夫?」
「ああ、寸前でキャッチできたし、ほとんど水は残ってなかったから大丈夫……っていうか、それより。何。いきなり。驚くだろ」
秀司はコップを元の位置に戻し、片手で顔を覆った。
指の隙間から見えるその顔はわずかに赤くなっていたりする。