ひねくれ王子は私に夢中
「いきなりじゃないわよ。前からずっと考えてたの。どう……かな。嫌?」
 沙良は身を屈め、彼の顔色を窺った。

「嫌じゃないけど……まさかそんなこと言われるとは思わなかったから。動揺した」
 秀司は額を押さえてため息をついた。

「みたいだね。鳩が豆鉄砲を食ったような顔してたからね。惜しいなあ、動画撮っておけば良かった」
「へえ。言うじゃん……ああもう、最悪」
 言っていていまいち格好がつかないとでも思ったのか、秀司は赤くなった頬を拭うように指で擦ってそっぽ向いた。

(こんな顔もするんだ)

 いつも飄々とした態度の彼が照れているのが可愛くて、つい笑ってしまう。

 これまでどんなに近くにいても、沙良は秀司をどこか遠く感じていた。

 気後れしてしまうほど美しい、学年トップの天才。
 万事をそつなく彼は常に沙良の一歩先を行く憧れで、自分にはとても手の届かない存在だと。

 でも、違った。

 些細なことで一喜一憂したり、予想していなかった展開に驚いたり、顔を赤らめて動揺している姿は自分と同じ――ごく普通の、一人の人間だ。

(そういえば、戸田くんも石田さんも言っていたわね。秀司は普通の男だって)

 もしかしたら彼らは、そんなに身構えず、対等に、肩の力を抜いて接するべきだと遠回しに伝えてくれていたのかもしれない。

「ねえ、返事は?」
 調子づいた沙良は上体を寄せて尋ねた。

「……いいよ」
 照れ隠しなのか、顔を赤らめたまま仏頂面で秀司は言った。

「でも、それって、ブーイングを浴びた場合はどうなるんだ?」
「うっ。だから、そうならないように努力してるわけで……」
 たちまち沙良は怯み、秀司はその隙を見逃さず反撃に出た。
 沙良が上体を引いた分、彼が身を乗り出してくる。

「じゃあ、もしブーイングだった場合は何でも一つ俺の言うこと聞いてね」
 秀司はぴっと指を立ててみせた。

「な、何でもって……さすがにそれはちょっと……」
 目を泳がせたが、周りの生徒たちはそれぞれのグループで会話に興じており、大和のように助け舟を出してくれる人間はどこにもいない。

「嫌なら付き合うって話も無しだな。賭けが成り立たないわけだし」
 主導権を取り戻したことが嬉しいらしく、秀司は頬杖をついてにっこり笑った。

「え、それは……」
「で? 返事は?」
 頬杖をついたまま秀司が頭を傾ける。

(ものすっごい良い笑顔でやり返してきた……!! やっぱりこの人ドSだわ!! 絶対ドSよ!! ブーイングだった場合、何を要求されるかわかったものじゃない……けど……けど!!)

 やっぱり秀司と付き合いたい!! という欲求が勝ち、

「わかったわよ! 何でも聞く!!」

 ほとんどやけになって沙良は叫んだ。
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