ひねくれ王子は私に夢中
「……嘘……」
文化祭に浮かれていた気持ちは吹き飛び、すうっと体温が下がった。
そこかしこから聞こえてくる生徒たちの喧噪が、まるで遠い世界の出来事のようだ。
「不破くんに大体聞いてるんだね……」
顔色を変えた沙良を見て、歩美は心配そうに眉をハの字にした。
「でもさ。一般公開されるのは日曜日だけだから、今日は絶対安全だよ。余計なことは考えずに楽しまなきゃ損だって」
「そうそう。西園寺はただ日程を聞いただけかもしれないし。仮にもし来たとしても不破くん狙いとは限らないよ? 純粋に、中学のときの友達に会いに来るのかもしれないじゃん!」
歩美と里帆がそう言って、
「ほら、そんな顔しないでよ。気になる情報を入手したから、念のため注意喚起しただけだって。深刻になる必要ないない!」
茉奈が沙良の頭を撫でてきた。
(その言葉は嘘でしょう、遠坂さん……)
本当にそう思っているのなら、茉奈だって秀司を見て顔を強張らせる必要はなかったはずだ。
沙良の胸中には不安の嵐が吹き荒れている。
もしも西園寺という女が現れたら、秀司がどんな反応をするのか――怖くて怖くて堪らない。
――でも。
「……そうね。みんな、励ましてくれてありがとう」
心優しい彼女たちにこれ以上心配をかけるのが心苦しくて、沙良は無理やり笑顔を作った。
「大丈夫よね」
自分に言い聞かせるように唱えて右手を握る。
「当たり前じゃん! にいんちょと不破くんの間にはあいつも入り込めないって!」
「一応他のクラスの友達にも、クラスの皆にも言っとくからさ! もし来たら皆で撃退しよう!」
「よし、『西園寺を撃退し隊』結成をここに誓おう!」
歩美は沙良を含めて円陣を組んだ。
三人が右手を重ね、歩美が沙良の右手を掴んで一番上に重ねさせる。
もしかしたら歩美は沙良が必要以上に強く右手を握っていることに気づいていたのかもしれない。
「ファイト、おー!」
「おー! って、これ何?」
「女バレ恒例の、試合前に気合を入れる儀式だよ儀式」
女子バレー部所属の歩美が里帆の問いに答え、短いスカートの裾を翻す。
「さ、戻ろう。あんまり遅いと不破くんも変に思っちゃうよ」
ニコッと笑い、歩美は沙良の肩を叩いて歩き始めた。
「お楽しみのコスプレ姿も待ってるしね!」
里帆も茉奈も沙良に気を遣い、ことさら明るく振る舞ってくれている。
「もう。からかわないでってば」
それがわかるから、沙良も努めて気にしていないフリを装った。
(どうか何事もありませんように……)
教室に戻るまでの間、沙良はそればかりを祈っていた。
文化祭に浮かれていた気持ちは吹き飛び、すうっと体温が下がった。
そこかしこから聞こえてくる生徒たちの喧噪が、まるで遠い世界の出来事のようだ。
「不破くんに大体聞いてるんだね……」
顔色を変えた沙良を見て、歩美は心配そうに眉をハの字にした。
「でもさ。一般公開されるのは日曜日だけだから、今日は絶対安全だよ。余計なことは考えずに楽しまなきゃ損だって」
「そうそう。西園寺はただ日程を聞いただけかもしれないし。仮にもし来たとしても不破くん狙いとは限らないよ? 純粋に、中学のときの友達に会いに来るのかもしれないじゃん!」
歩美と里帆がそう言って、
「ほら、そんな顔しないでよ。気になる情報を入手したから、念のため注意喚起しただけだって。深刻になる必要ないない!」
茉奈が沙良の頭を撫でてきた。
(その言葉は嘘でしょう、遠坂さん……)
本当にそう思っているのなら、茉奈だって秀司を見て顔を強張らせる必要はなかったはずだ。
沙良の胸中には不安の嵐が吹き荒れている。
もしも西園寺という女が現れたら、秀司がどんな反応をするのか――怖くて怖くて堪らない。
――でも。
「……そうね。みんな、励ましてくれてありがとう」
心優しい彼女たちにこれ以上心配をかけるのが心苦しくて、沙良は無理やり笑顔を作った。
「大丈夫よね」
自分に言い聞かせるように唱えて右手を握る。
「当たり前じゃん! にいんちょと不破くんの間にはあいつも入り込めないって!」
「一応他のクラスの友達にも、クラスの皆にも言っとくからさ! もし来たら皆で撃退しよう!」
「よし、『西園寺を撃退し隊』結成をここに誓おう!」
歩美は沙良を含めて円陣を組んだ。
三人が右手を重ね、歩美が沙良の右手を掴んで一番上に重ねさせる。
もしかしたら歩美は沙良が必要以上に強く右手を握っていることに気づいていたのかもしれない。
「ファイト、おー!」
「おー! って、これ何?」
「女バレ恒例の、試合前に気合を入れる儀式だよ儀式」
女子バレー部所属の歩美が里帆の問いに答え、短いスカートの裾を翻す。
「さ、戻ろう。あんまり遅いと不破くんも変に思っちゃうよ」
ニコッと笑い、歩美は沙良の肩を叩いて歩き始めた。
「お楽しみのコスプレ姿も待ってるしね!」
里帆も茉奈も沙良に気を遣い、ことさら明るく振る舞ってくれている。
「もう。からかわないでってば」
それがわかるから、沙良も努めて気にしていないフリを装った。
(どうか何事もありませんように……)
教室に戻るまでの間、沙良はそればかりを祈っていた。