ひねくれ王子は私に夢中
講堂での開会式を終えた二十分後。
接客用の衣装に着替えた沙良は教室棟の四階廊下で待機させられていた。
目の前には固く閉じられた二年一組の教室の扉があり、扉の両脇にはさきほど沙良を更衣室まで連行した衣装係の女子と山岸がいる。
女子と山岸は王城を守る門番のように直立し、背後で手を組んでいた。
その表情は至って大真面目だ。
「あの人たち何してるんだろう」
「さあ。一組って学年で一番頭がいいクラスのはずなんだけど、ちょっとアレな人が多いよね」
「馬鹿と天才は紙一重ってやつだね」
通りすがりの別クラスの生徒が囁き合っているが気にしてなどいられない。
何しろこの扉の向こうにはコスプレ姿の秀司がいるのだから。
コンコン、と教室の扉が内側からノックされた。
中にいるクラスメイトからの準備完了の合図だ。
「委員長。心の準備はできましたか」
厳かな空気の中――もっとも、隣の二組からは馬鹿笑いが聞こえてきていたりする――山岸が静かに尋ねてきた。
「はい」
それなりに重い頭の装飾を揺らして頷くと、山岸も真顔で頷き返した。
「では参りましょう。いざ夢の世界へ、オープン・ザ・ドア!」
山岸と女子が大げさな動作で扉を開け放ち、沙良は期待に胸を膨らませて教室の中へと足を踏み入れた。
「お、来た来た」
「失神するんじゃね? 大丈夫か?」
教室の中には瑠夏を含めたコスプレ姿の人間が何人かいたが、沙良の目を奪ったのは教室の中央に立っている――恐らく立たされている――秀司ただ一人だった。
その長身を包むのは上品な白い着物。
襟には伊達襟風に赤の差し色が入っており、帯の黒が全体を引き締めている。
彼の頭からは大きな白い狐の耳が生えていて、左耳に添えられた花の形の飾りと鈴がアクセント。
狐耳がカチューシャだということがバレないように、頭との接触部分はうまく髪で隠されていた。
本人は非常に恥ずかしいらしく、頬を朱に染めて仏頂面だ。
だが、珍しい照れ顔だからこそ良い。
珍しい着物姿と相まって素晴らしい。
(ひゃああああああ!!!)
堪らず沙良は両手で顔を覆って悶絶した。
いまばかりは西園寺という不吉の代名詞も宇宙の彼方へ吹っ飛んだ。
「どうよ? うちら超頑張ったんだから!」
衣装係の女子二人が寄ってきて、ドヤ顔で親指を立てた。
「ああ、あなたたち……」
沙良は幽鬼のような足取りでふらふらと歩み寄り、二人まとめて腕の中に閉じ込めた。
「素晴らしい仕事をしてくれてありがとう……私、もう思い残すことはないわ……!!」
感極まって咽び泣く。
接客用の衣装に着替えた沙良は教室棟の四階廊下で待機させられていた。
目の前には固く閉じられた二年一組の教室の扉があり、扉の両脇にはさきほど沙良を更衣室まで連行した衣装係の女子と山岸がいる。
女子と山岸は王城を守る門番のように直立し、背後で手を組んでいた。
その表情は至って大真面目だ。
「あの人たち何してるんだろう」
「さあ。一組って学年で一番頭がいいクラスのはずなんだけど、ちょっとアレな人が多いよね」
「馬鹿と天才は紙一重ってやつだね」
通りすがりの別クラスの生徒が囁き合っているが気にしてなどいられない。
何しろこの扉の向こうにはコスプレ姿の秀司がいるのだから。
コンコン、と教室の扉が内側からノックされた。
中にいるクラスメイトからの準備完了の合図だ。
「委員長。心の準備はできましたか」
厳かな空気の中――もっとも、隣の二組からは馬鹿笑いが聞こえてきていたりする――山岸が静かに尋ねてきた。
「はい」
それなりに重い頭の装飾を揺らして頷くと、山岸も真顔で頷き返した。
「では参りましょう。いざ夢の世界へ、オープン・ザ・ドア!」
山岸と女子が大げさな動作で扉を開け放ち、沙良は期待に胸を膨らませて教室の中へと足を踏み入れた。
「お、来た来た」
「失神するんじゃね? 大丈夫か?」
教室の中には瑠夏を含めたコスプレ姿の人間が何人かいたが、沙良の目を奪ったのは教室の中央に立っている――恐らく立たされている――秀司ただ一人だった。
その長身を包むのは上品な白い着物。
襟には伊達襟風に赤の差し色が入っており、帯の黒が全体を引き締めている。
彼の頭からは大きな白い狐の耳が生えていて、左耳に添えられた花の形の飾りと鈴がアクセント。
狐耳がカチューシャだということがバレないように、頭との接触部分はうまく髪で隠されていた。
本人は非常に恥ずかしいらしく、頬を朱に染めて仏頂面だ。
だが、珍しい照れ顔だからこそ良い。
珍しい着物姿と相まって素晴らしい。
(ひゃああああああ!!!)
堪らず沙良は両手で顔を覆って悶絶した。
いまばかりは西園寺という不吉の代名詞も宇宙の彼方へ吹っ飛んだ。
「どうよ? うちら超頑張ったんだから!」
衣装係の女子二人が寄ってきて、ドヤ顔で親指を立てた。
「ああ、あなたたち……」
沙良は幽鬼のような足取りでふらふらと歩み寄り、二人まとめて腕の中に閉じ込めた。
「素晴らしい仕事をしてくれてありがとう……私、もう思い残すことはないわ……!!」
感極まって咽び泣く。