ひねくれ王子は私に夢中
「待って待って。生きて委員長」
「やばいこの人泣いてるわ。ガチ泣きだわ。どうしよ」
「あー、委員長? お礼はもういいから、ほれ。泣いてないで、存分に愛しの彼のコスプレ姿を堪能してきなさい」
「ええ……行ってきます」
背中を押された沙良は手の甲で涙を拭い、秀司の元へ歩き出した。
「もし、そこのお狐様」
沙良は秀司の前で足を止め、おずおずと声をかけた。
何言ってんだこいつ、という目で秀司が沙良を見る。
「お尋ねしたいのですが。もしや貴方こそが稲を象徴する農耕神、稲荷大明神ではありませんか?」
「誰がだ」
秀司は顔をしかめたが、恋に狂った沙良の目は彼が放つ神々しいオーラをはっきりと映し出していた。
天使の輪が浮かんだ艶やかな髪も、切れ長の瞳も、通った鼻筋も、への字に曲がった唇も、腰に当てられた長い指先も――目に映る全てが完璧に整っていて、ただただ美しい。
その身に纏う白い着物さえ神聖な衣に見えてしまう。
「いいえ、どんなに隠そうともその輝きはごまかせません。私には貴方様の眩いオーラが見えます。なんと尊いお方……!!」
胸の前で両手を組み、神に会えた感動に瞳を潤ませる。
「正気に戻れ。」
べしっ。
「はうっ!?」
額に手刀を入れられた沙良は額を押さえて目をぱちくりさせた。
「あら? 私はいま何を」
「現世への帰還おめでとう。ったく、誰が神様だ、こそばゆい。沙良だって同じ格好してるくせに」
言われて沙良は自分の格好を見下ろした。
沙良も秀司と同じ白い着物を着ているが、細部は違う。
帯は赤だし、狐の右耳に添えられた飾りも秀司のそれと色違いだ。
「いや確かに同じ格好してるけど、しょせん私はコスプレよ。それに比べて秀司は神様だわ」
真顔で言う。
「……まだ正気に戻れてないようだな……」
秀司は頬を引き攣らせ、乱暴な手つきで狐の耳のカチューシャを外した。
「ああああ!! なんで外すの!! 秀司のアイデンティティがなくなっちゃうじゃない!!」
「俺のアイデンティティは狐耳なのか!?」
「何言ってるのよ、立派な三角の耳こそ狐神の象徴でしょうが!!」
沙良は秀司の手から狐耳のカチューシャをひったくるようにして奪った。
狐耳についた小さな鈴がリン、と鳴る。
その音を聞きながら、沙良はカチューシャ片手に詰め寄った。
「尻尾だけだったら何の動物かわからないでしょう!? その狐耳は秀司が狐神であることを示す最重要アイテムなのよ!? 狐耳がなくなったら誰も信仰してくれなくなるわよ!? 信仰を失った神は力も失うんだからね!」
がしっと秀司の腕を掴む。
「だから俺は狐神じゃないって! 何なんだよその異常なまでの狐耳への執着は!? 目が血走ってて怖いんだけど!? なあ大和、やっぱお前が狐役やって!」
「無理。というか面倒なことになりそうだから嫌」
狼のコスプレをしている大和は逃亡した。
着物の帯から下がった茶色い尻尾が動きに合わせて揺れている。
「やばいこの人泣いてるわ。ガチ泣きだわ。どうしよ」
「あー、委員長? お礼はもういいから、ほれ。泣いてないで、存分に愛しの彼のコスプレ姿を堪能してきなさい」
「ええ……行ってきます」
背中を押された沙良は手の甲で涙を拭い、秀司の元へ歩き出した。
「もし、そこのお狐様」
沙良は秀司の前で足を止め、おずおずと声をかけた。
何言ってんだこいつ、という目で秀司が沙良を見る。
「お尋ねしたいのですが。もしや貴方こそが稲を象徴する農耕神、稲荷大明神ではありませんか?」
「誰がだ」
秀司は顔をしかめたが、恋に狂った沙良の目は彼が放つ神々しいオーラをはっきりと映し出していた。
天使の輪が浮かんだ艶やかな髪も、切れ長の瞳も、通った鼻筋も、への字に曲がった唇も、腰に当てられた長い指先も――目に映る全てが完璧に整っていて、ただただ美しい。
その身に纏う白い着物さえ神聖な衣に見えてしまう。
「いいえ、どんなに隠そうともその輝きはごまかせません。私には貴方様の眩いオーラが見えます。なんと尊いお方……!!」
胸の前で両手を組み、神に会えた感動に瞳を潤ませる。
「正気に戻れ。」
べしっ。
「はうっ!?」
額に手刀を入れられた沙良は額を押さえて目をぱちくりさせた。
「あら? 私はいま何を」
「現世への帰還おめでとう。ったく、誰が神様だ、こそばゆい。沙良だって同じ格好してるくせに」
言われて沙良は自分の格好を見下ろした。
沙良も秀司と同じ白い着物を着ているが、細部は違う。
帯は赤だし、狐の右耳に添えられた飾りも秀司のそれと色違いだ。
「いや確かに同じ格好してるけど、しょせん私はコスプレよ。それに比べて秀司は神様だわ」
真顔で言う。
「……まだ正気に戻れてないようだな……」
秀司は頬を引き攣らせ、乱暴な手つきで狐の耳のカチューシャを外した。
「ああああ!! なんで外すの!! 秀司のアイデンティティがなくなっちゃうじゃない!!」
「俺のアイデンティティは狐耳なのか!?」
「何言ってるのよ、立派な三角の耳こそ狐神の象徴でしょうが!!」
沙良は秀司の手から狐耳のカチューシャをひったくるようにして奪った。
狐耳についた小さな鈴がリン、と鳴る。
その音を聞きながら、沙良はカチューシャ片手に詰め寄った。
「尻尾だけだったら何の動物かわからないでしょう!? その狐耳は秀司が狐神であることを示す最重要アイテムなのよ!? 狐耳がなくなったら誰も信仰してくれなくなるわよ!? 信仰を失った神は力も失うんだからね!」
がしっと秀司の腕を掴む。
「だから俺は狐神じゃないって! 何なんだよその異常なまでの狐耳への執着は!? 目が血走ってて怖いんだけど!? なあ大和、やっぱお前が狐役やって!」
「無理。というか面倒なことになりそうだから嫌」
狼のコスプレをしている大和は逃亡した。
着物の帯から下がった茶色い尻尾が動きに合わせて揺れている。