ひねくれ王子は私に夢中

困り事なら私まで

 一組が誇る美男美女のコスプレ姿は存分にその効果を発揮したらしく、妖怪喫茶は盛況だった。

 さすがに常時満席などということはないが、それでも客のいない時間はなく、妖怪に扮した生徒は注文に応じた和風スイーツを運び、時にはテーブルに留まって客と談笑した。

 やはり秀司は女性客に大人気で、そのレアなコスプレ姿を撮りたがる生徒もいたが、誰に頼まれようと秀司は断った。

 外出先で見知らぬ人間から盗撮されたり、写真や動画を許可なくSNSに上げられたりしてきた秀司は他人に撮られることを嫌う。

 でも、沙良のスマホには秀司の写真と動画がある。

 そう思うと、彼がどれだけ女性にモテようと気にせずにいられた――が。

「なんで彼女作っちゃうんですかあああ。私だって入学したときから不破先輩のこと好きだったのにいい」
「私もですよおお。不破先輩は皆のアイドルだったのにいい」

 秀司の腕を掴んで号泣する一年女子と、苦笑交じりに謝る秀司を見たときはさすがに内心穏やかではいられなかった。

 それでも、沙良は秀司を信じ、笑顔を崩すことなく他のテーブルで接客した。

 秀司に思いの丈をぶつけて満足したのか――というか、満足してもらえなければ大変困る――やがて一年女子たちは肩を抱き合い、鼻を啜りながら教室を出て行った。

 ちょうどそこで十二時を迎えて午前の部は終了となり、瑠夏は『準備中。午後一時から開店します』と書かれた札を持って廊下へ出て行った。

 これから一時間は全員が休憩時間で、沙良たちは午後三時からまた教室に戻って働く予定だ。

「お疲れ」
 衝立で仕切られた教室の後方、厨房スペース。

 抹茶やチョコレートの匂いが漂うその場所でテーブルを拭き、乱れた紙コップやおしぼりを揃えていると、秀司が衝立の向こうからひょっこり姿を現した。

 沙良が何をしているのかを見て、彼もまたテーブルの上の整理を始める。

「不破くん、お疲れ。後は二人に任せるね」
 沙良と同じ作業をしていた女子は空気を読んで去ってくれた。
 これで厨房スペースには沙良と秀司の二人だけとなる。

「お疲れ様。そっちは大変だったわね。色々と」
 白玉が入った鍋に蓋をしてから振り返る。

「あー……やっぱり気になった?」
 沙良とお揃いの狐耳を生やした彼は困ったような顔をした。

 彼も人前で号泣されるのは予想外だっただろうが、当の一年女子たちも予想外だったに違いない。

 恐らく最初は泣くつもりなどなかったのに、憧れの秀司と話しているうちに感情を堪えきれなくなったのだろう。

 しばらくしたら冷静になり、恥ずかしさにのたうち回るのではないだろうか。
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