ひねくれ王子は私に夢中

探し物

 小林は先週誕生日を迎え、付き合っている他校の男子からペアリングをもらったそうだ。

 中央に小さなブルーダイヤモンドがあしらわれたピンクゴールドの指輪。

 小林は大好きな彼からのプレゼントを大いに喜び、その日から肌身離さず持ち歩いた。

 今日もカーディガンの袖の下に隠して左手の薬指に嵌めていたのだが、友達と非日常で彩られた校内を歩き回っているうちに紛失してしまった。

 友達もしばらくは一緒に探してくれていたのだが、昼時になってお腹が空いたと戦線離脱してしまい、それから一人で探し続けていたらしい。

「あの指輪は私には少し大きくて、薬指に嵌めてると緩くて落ちそうだったんですが、それでも左手の薬指以外嵌めたくなかったんです。彼氏が春から頑張ってバイトしてこの指輪を買ってくれたんだと思うと、他の指輪と交換したいとも思いませんでした。でも、こんなことになるんだったらおとなしくサイズ交換してもらえば良かった。無理に持ち歩かず、家に置いておけば良かった……」
 二年一組の教室で、小林は小さな身体をますます縮めた。

「まあ、嘆いても仕方ないよ。今回のことは良い教訓になったんじゃない? 怖ーい先生の言う通り、学校に不要物を持ってきたらいけないってことだな」
 苦笑いしたのは山岸だ。

 小林から事情を聞いた沙良は彼女を連れて自分のクラスに戻り、居残っていた山岸や歩美たちに協力を求めた。

 そういうことなら人手は多いほうがいいだろう、と人が人を呼び、他のクラスの生徒含む二十人弱が一組に集まっている。

「はい。もう絶対に指輪を持ってきたりしません……ご迷惑をおかけしてしまって、本当に、本当に申し訳ありません……」
「反省してるならそれでいいのよ。大丈夫。ここにいる人たちはみんな小林さんの味方よ」
 沙良はしょんぼりしている小林の頭を優しく撫でた。
 身長差があるせいか、幼い妹のように見えて放っておけない。

「過去を悔やむよりもいまどうすべきかを考えましょう。落とした場所に心当たりはない? 午前中は友達とどんなルートを歩いたの?」
 文化祭のパンフレットを広げ、沙良は小林から聞き取ったルートを校舎案内図に書き込んだ。

 そのルートを適当に四分割して四つの丸で囲み、自分と秀司を除いた生徒たちを独断で四班に分ける。

「じゃあ小林さんと一班はここ、二班はここ、三班はここを。四班は中庭を重点に、屋台前も探してみてください」
 台詞に合わせて校舎案内図につけた四つの丸を次々に示していく。

 一班には面倒見の良い歩美と里帆がいる。
 小林さんのことよろしくね、とアイコンタクトすると、歩美たちは小さく頷いた。
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