ひねくれ王子は私に夢中
二人の間に会話はない。
どこかにスピーカーがあるらしく、隙間風のような音や、カサカサカサ……といった不気味な音が聞こえてくるが、いちいち怯えてなどいられなかった。
通路の端々に配置された人体模型や骸骨、顔の潰れた人形などに目もくれず、姿勢を低くしてひたすら指輪を探している沙良たちを見て、通路のコーナーから急に飛び出してきた三年女子も驚かす気が失せたらしい。
「……何してんの?」
手首を折り曲げ、両手を前に垂らした典型的な『お化けのポーズ』で登場した白い着物姿の三年女子は顔の全面を覆っていた長い黒髪を掻き上げ、不可解そうに尋ねてきた。
「すみません。コンタクトを落としてしまったみたいで」
秀司が立って嘘をつく。
少し離れた場所で屈んでいた沙良も立ち上がり、秀司の横に移動した。
「あら、イケメン――もとい、大変じゃない。後続の生徒を止めて明かりをつけるよう言ってくるわ」
「いえ、それには及びません」
親切な申し出を秀司は柔らかな口調で断った。
(捜索メンバーの中に堅物が入り込み、せっかく見つけ出した指輪を先生に渡されてしまったら本末転倒だものね。没収されても卒業までには返してもらえるだろうけれど、大事な指輪がいつ手元に戻るかわからない状態なんて小林さんに耐えられるわけがないわ)
そんなことになったら気弱な彼女はショックで卒倒してしまいかねない。
「お気遣いありがとうございます。でも、落とした場所に見当はついているので、このまま彼女と二人で探したいんです。我儘言ってすみません」
秀司が頭を下げるのを見て、沙良も急いで会釈した。
関わらないで欲しいという無言のメッセージは正しく三年女子に伝わったらしい。
「……あなたたち、カップルなのね?」
沙良と秀司を交互に見て、三年女子は愉快そうに唇の片端を上げた。
「!?」
「そうです」
動揺を隠せない沙良の隣で、秀司がさらりと肯定する。
「なるほど。そういうことならお邪魔しました。幽霊はおとなしく成仏することにするわ」
三年女子はウィンクして段ボールの隙間に細い身体を滑り込ませ、闇の中に消えた。
秀司は何事もなかったかのように通路の先へと進み、屈んで指輪捜索を再開した。
(カップルって言われた……お揃いの着物を着てるわけじゃないのに、ちゃんと彼女に見えたのかぁ……ああ、ダメだ、笑ってしまう……いやいや、浸ってる場合じゃない! いまは指輪を探さなきゃ!!)
雑念を払い、捜索を続けていたときだった。
右手に持っていたスマホが不意にブルブル震えた。
「!」
沙良は急いでスマホの画面を自分に向けた。
四班の班長、山岸からラインが届いている。
どこかにスピーカーがあるらしく、隙間風のような音や、カサカサカサ……といった不気味な音が聞こえてくるが、いちいち怯えてなどいられなかった。
通路の端々に配置された人体模型や骸骨、顔の潰れた人形などに目もくれず、姿勢を低くしてひたすら指輪を探している沙良たちを見て、通路のコーナーから急に飛び出してきた三年女子も驚かす気が失せたらしい。
「……何してんの?」
手首を折り曲げ、両手を前に垂らした典型的な『お化けのポーズ』で登場した白い着物姿の三年女子は顔の全面を覆っていた長い黒髪を掻き上げ、不可解そうに尋ねてきた。
「すみません。コンタクトを落としてしまったみたいで」
秀司が立って嘘をつく。
少し離れた場所で屈んでいた沙良も立ち上がり、秀司の横に移動した。
「あら、イケメン――もとい、大変じゃない。後続の生徒を止めて明かりをつけるよう言ってくるわ」
「いえ、それには及びません」
親切な申し出を秀司は柔らかな口調で断った。
(捜索メンバーの中に堅物が入り込み、せっかく見つけ出した指輪を先生に渡されてしまったら本末転倒だものね。没収されても卒業までには返してもらえるだろうけれど、大事な指輪がいつ手元に戻るかわからない状態なんて小林さんに耐えられるわけがないわ)
そんなことになったら気弱な彼女はショックで卒倒してしまいかねない。
「お気遣いありがとうございます。でも、落とした場所に見当はついているので、このまま彼女と二人で探したいんです。我儘言ってすみません」
秀司が頭を下げるのを見て、沙良も急いで会釈した。
関わらないで欲しいという無言のメッセージは正しく三年女子に伝わったらしい。
「……あなたたち、カップルなのね?」
沙良と秀司を交互に見て、三年女子は愉快そうに唇の片端を上げた。
「!?」
「そうです」
動揺を隠せない沙良の隣で、秀司がさらりと肯定する。
「なるほど。そういうことならお邪魔しました。幽霊はおとなしく成仏することにするわ」
三年女子はウィンクして段ボールの隙間に細い身体を滑り込ませ、闇の中に消えた。
秀司は何事もなかったかのように通路の先へと進み、屈んで指輪捜索を再開した。
(カップルって言われた……お揃いの着物を着てるわけじゃないのに、ちゃんと彼女に見えたのかぁ……ああ、ダメだ、笑ってしまう……いやいや、浸ってる場合じゃない! いまは指輪を探さなきゃ!!)
雑念を払い、捜索を続けていたときだった。
右手に持っていたスマホが不意にブルブル震えた。
「!」
沙良は急いでスマホの画面を自分に向けた。
四班の班長、山岸からラインが届いている。