ひねくれ王子は私に夢中
『谷口が中庭で見つけた』
 ピンクゴールドの指輪の写真も送られてきていた。

「やった! 秀司、見て! 四班の谷口くんが見つけてくれたって!」
「良かったな」
 喜色満面で報告すると、通路脇にしゃがんでいた秀司は膝を伸ばした。

 小林や他の班長たちに指輪が見つかったとラインを送ってからスマホをスカートのポケットに入れ、
「行こう!」
 ぽんと秀司の腕を叩き、弾んだ足取りで歩き出す。

「嬉しそうだね」
「そりゃそうよ。あの子、ずっと自分を責めて死にそうな顔してたのよ? 早く喜んだ顔が見たいの」
「ふうん。せっかくお化け屋敷にいるのに、俺と楽しもうという気持ちは少しもないわけだ」
「えっ」
 沙良は思わず急停止して左に顔を向けた。

 間接照明が足元を照らすだけの通路は暗くて見えづらいが、すぐ隣にいる彼の表情くらいならわかる。

 どうやら彼は不機嫌らしい。

 小林を教室に連れて行ったとき、彼は軽く驚いただけで特に負の感情を表に出すことはなかったが、デートの約束よりも他人を優先されて良い気分になる人間はどこにもいないだろう。

「ああ――そうね。ごめんなさい。せっかくだものね。指輪も無事見つかったことだし、出口まで楽しんでいきましょうか」
 秀司は沙良と目を合わせようとせず、何も言ってくれない。

(本当はずっと怒ってたの……?)
 不安の雲が心に立ち込め、沙良はさらに言葉を付け足した。

「あの、誤解しないでほしいんだけど、秀司をないがしろにするつもりはなかったのよ? お化け屋敷(ここ)には小林さんの件が片付いたら、もう一度改めて来ようと思ってたの。私たちは三時まで休憩だし、時間は十分あるでしょう? お化け屋敷も屋台も秀司と行きたいって、本当に楽しみにしてたんだから。昨日の夜はずっと文化祭のパンフレットを眺めてて、楽しみすぎて眠れなかったくらいで――」

 冷や汗を掻きながら早口で弁解していると、堪えきれなくなったように秀司が小さく噴き出した。

(なんで笑うの?)
 唖然としてしまう。

「冗談だよ。もし沙良が俺とのデートを優先して困ってる他人を見捨てるような人間だったら……」

 そこで急に彼は言葉を止め、じっと沙良を見つめた。

「??」
 頭の上に疑問符を浮かべている間に、彼は顔を背けた。

「危な。狐耳が可愛すぎて言わなくてもいいことを言うところだった」
 何か小声でボソボソ言っているが、声量が小さすぎて聞こえない。

「え、いまなんて?」
 首を傾げると、狐耳に添えられた鈴が鳴った。

「……内緒」
 秀司はちらりと横目で沙良を見た後、歩き出した。

「早く帰ろう。沙良の写真も撮りたいし」
「へっ!?」
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