ひねくれ王子は私に夢中
 告白してきた男子に片っ端から『三角チョコパイが食べたい』 と言ってきたのは自分の少々特殊な嗜好を理解してほしかったからであって、その男子を自分好みのマッチョに育て上げようなんて気はさらさらなかったそうだ。

 だから、瑠夏の嗜好を理解していて、おまけに優しく、過去の傷も知る大和が瑠夏の恋愛対象になる可能性は十分にあった。

(戸田くんに飴を貰ったときから、瑠夏の態度がちょっと変わったのよね。昨日はダンスレッスンの後、戸田くんに誘われて駅前のコーヒーチェーン店に行ったらしいし。瑠夏が男子と二人きりになることを許すなんて、私の知る限り一度もないわ。これはひょっとして、ひょっとしたりするんじゃ……?)

「何ぼうっと突っ立ってんのよ。テーブルセット終わったわよ」
「えっ」
 はっと我に返ると、瑠夏が隣に立っていた。

「今日も不破くんとご飯食べに行くんでしょ。午後二時には着替えて講堂に来なさいよ。あたしも戸田くんもあんたらのために踊るっていうのに、主役が遅刻したら許さないからね」
「はい、重々承知しています」
 沙良は頭を下げた。

 瑠夏はそのまま教室から出て行こうとしたが、沙良はとっさに彼女の左手首を掴んで引き止めた。

「瑠夏はお昼どうするの? 一人で食べるの?」
「ええ。そのつもりだけど」
 それが何か、とでも言わんばかりの態度だ。

 歩美たちとはよく話すようになったが、瑠夏の孤立癖は直らない。

 本人がそれで良いというのなら放っておくべきなのかもしれないが――

(いじめられる前は瑠夏も女子グループに所属してて、他の子みたいに友達と談笑しながら食事をしてたんでしょう。私は独りでいる瑠夏を見るのは嫌なの。今日は文化祭なんだよ? お祭りは皆と楽しむものでしょう?)

「何よ」
 瑠夏が眉をひそめた。
 沙良は意を決して瑠夏の手を引っ張った。

「ちょっと、何なのよ――」
 瑠夏の声を無視して衝立の裏側へと回り込み、厨房スペースに足を踏み入れる。

 食材が並べられた机の横で大和が三人の男子と会話していた。

 社交的な大和は友人が多い。
 根が善人なので、誰からも好かれるタイプだ。

 大和は沙良たちを見て会話を止めた。
 厨房スペースにいた他の女子も、どうしたのかという顔でこちらを見ている。 

「会話中にごめんね。戸田くん、ちょっといい?」
「ん? 何?」
 大和は呼びかけに応じてこちらに来た。
 厨房スペースを出て、教室の窓際で足を止める。

「お昼は誰かと約束してる?」
「いや。適当にその辺の誰かと食べるつもりだけど」
「その社交性を瑠夏にもわけてあげてほしい……」
 考えが口から洩れてしまっていた。
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