ひねくれ王子は私に夢中
「え?」
声が小さくて聞こえなかったらしく、大和が聞き返してきた。
「いえ、なんでもないの、ごめん。約束した誰かがいないなら、瑠夏と一緒に食べてあげてくれない?」
「ちょっと、ふざけるんじゃないわよ。なんであたしが食べて『あげられ』なきゃいけないのよ」
その恩着せがましい言い方は瑠夏の逆鱗に触れてしまったらしく、鬼の形相で睨みつけられた。
(あああしまった、言い方を間違えた! そうだ瑠夏はめちゃくちゃプライド高い人だった、これ絶対面倒くさいことになるやつ!! 本気で怒られるやつ!! 良かれと思って二人の仲を取り持つつもりが、その前提で話をこじらせてどうするのよ私の馬鹿――!!)
自分を罵ったところでもう遅い。
「誰かとお昼を食べたいなんていつどこであたしが言った?」
静かな、それでいて怒り狂った声が沙良の耳朶を打つ。
「はい、言ってません、ごめんなさい」
詰め寄られた沙良は一歩引いたが、瑠夏はさらに距離を詰めてきた。
「石田さんたちならともかく、なんで戸田くんに頼もうと思ったのよ?」
「ひえ……だって、石田さんたちはもう出て行っちゃったし、二人でコーヒーを飲むくらいなら仲が良いのかなって……」
沙良が後ろに引けば引く分だけ瑠夏が近づいてくる。
(秀司はどこ行っちゃったの)
彼がいれば助けてくれそうだが、教室にその姿はない。
そういえば、瑠夏のことで考え込んでいたときに「ゴミ捨ててくる」と秀司の声がしたような気がする。
「馬鹿じゃないの? あれは今日でダンスレッスンも終わりだからと、戸田くんが講師役のあたしをねぎらってくれただけよ」
瑠夏は遠慮なく詰め寄ってくる。
「はい、すみません、私が悪かったです、ごめんなさい……だからどうか怒りをお鎮めください……もう後ろは壁で後退できるスペースがないんです……顔が近すぎです……全面降伏しますから……」
「まあまあ長谷部さん。落ち着いて」
大和が苦笑して瑠夏の肩を掴んだ。
ようやく瑠夏の圧から解放された沙良はさっと横に逃げ、大きく息を吐き出した。
(ああ、自由って素晴らしい……戸田くんありがとう……)
「花守さんはごく一般的な、気を遣った表現をしただけだよ。そんなに突っかからなくてもいいじゃん。上から目線に聞こえたかもしれないけどさ、悪気がなかったのはわかってるんだろ?」
「……まあね」
不満そうに瑠夏は頷いた。
「じゃあこの話はこれで終わりにして、俺とご飯食べに行こうよ」
大和は全ての邪気を浄化するような笑顔を浮かべた。
「え」
面喰ったように瑠夏が目を瞬く。
「これからしばらく俺と一緒に行動するのは嫌?」
「……嫌というわけじゃないけど……」
瑠夏が床に視線を落として言い淀む。
「じゃあ行こう!」
大和は明るく言って瑠夏の手を掴み、教室の後方の扉へと向かった。
「!?」
瑠夏はぎょっとしたような顔をしたが、その手を振り解こうとはしない。
大和は扉の前で繋いでいた手を離した。
片手で扉を開き、もう一方の手で扉の向こうを示して「どうぞ」と頭を下げ、恭しく瑠夏をエスコートする。
「……どうも……」
こんな扱いをされたのは初めてなのか、瑠夏は困惑したように言って廊下に出た。
彼女に続いて大和も廊下に出る。
扉を閉める直前、大和は「後は任せろ」とでもいうように、ぱちんと片目を閉じた。
扉が閉まり、二人の姿が視界から消えると同時、厨房スペースにいた男子の一人が歩いてきた。
「……大和は良い男だろう」
男子はしみじみとした調子で言った。
「うん、めちゃくちゃ良い男! 本当に良い男!!」
沙良は力いっぱい頷いた。
声が小さくて聞こえなかったらしく、大和が聞き返してきた。
「いえ、なんでもないの、ごめん。約束した誰かがいないなら、瑠夏と一緒に食べてあげてくれない?」
「ちょっと、ふざけるんじゃないわよ。なんであたしが食べて『あげられ』なきゃいけないのよ」
その恩着せがましい言い方は瑠夏の逆鱗に触れてしまったらしく、鬼の形相で睨みつけられた。
(あああしまった、言い方を間違えた! そうだ瑠夏はめちゃくちゃプライド高い人だった、これ絶対面倒くさいことになるやつ!! 本気で怒られるやつ!! 良かれと思って二人の仲を取り持つつもりが、その前提で話をこじらせてどうするのよ私の馬鹿――!!)
自分を罵ったところでもう遅い。
「誰かとお昼を食べたいなんていつどこであたしが言った?」
静かな、それでいて怒り狂った声が沙良の耳朶を打つ。
「はい、言ってません、ごめんなさい」
詰め寄られた沙良は一歩引いたが、瑠夏はさらに距離を詰めてきた。
「石田さんたちならともかく、なんで戸田くんに頼もうと思ったのよ?」
「ひえ……だって、石田さんたちはもう出て行っちゃったし、二人でコーヒーを飲むくらいなら仲が良いのかなって……」
沙良が後ろに引けば引く分だけ瑠夏が近づいてくる。
(秀司はどこ行っちゃったの)
彼がいれば助けてくれそうだが、教室にその姿はない。
そういえば、瑠夏のことで考え込んでいたときに「ゴミ捨ててくる」と秀司の声がしたような気がする。
「馬鹿じゃないの? あれは今日でダンスレッスンも終わりだからと、戸田くんが講師役のあたしをねぎらってくれただけよ」
瑠夏は遠慮なく詰め寄ってくる。
「はい、すみません、私が悪かったです、ごめんなさい……だからどうか怒りをお鎮めください……もう後ろは壁で後退できるスペースがないんです……顔が近すぎです……全面降伏しますから……」
「まあまあ長谷部さん。落ち着いて」
大和が苦笑して瑠夏の肩を掴んだ。
ようやく瑠夏の圧から解放された沙良はさっと横に逃げ、大きく息を吐き出した。
(ああ、自由って素晴らしい……戸田くんありがとう……)
「花守さんはごく一般的な、気を遣った表現をしただけだよ。そんなに突っかからなくてもいいじゃん。上から目線に聞こえたかもしれないけどさ、悪気がなかったのはわかってるんだろ?」
「……まあね」
不満そうに瑠夏は頷いた。
「じゃあこの話はこれで終わりにして、俺とご飯食べに行こうよ」
大和は全ての邪気を浄化するような笑顔を浮かべた。
「え」
面喰ったように瑠夏が目を瞬く。
「これからしばらく俺と一緒に行動するのは嫌?」
「……嫌というわけじゃないけど……」
瑠夏が床に視線を落として言い淀む。
「じゃあ行こう!」
大和は明るく言って瑠夏の手を掴み、教室の後方の扉へと向かった。
「!?」
瑠夏はぎょっとしたような顔をしたが、その手を振り解こうとはしない。
大和は扉の前で繋いでいた手を離した。
片手で扉を開き、もう一方の手で扉の向こうを示して「どうぞ」と頭を下げ、恭しく瑠夏をエスコートする。
「……どうも……」
こんな扱いをされたのは初めてなのか、瑠夏は困惑したように言って廊下に出た。
彼女に続いて大和も廊下に出る。
扉を閉める直前、大和は「後は任せろ」とでもいうように、ぱちんと片目を閉じた。
扉が閉まり、二人の姿が視界から消えると同時、厨房スペースにいた男子の一人が歩いてきた。
「……大和は良い男だろう」
男子はしみじみとした調子で言った。
「うん、めちゃくちゃ良い男! 本当に良い男!!」
沙良は力いっぱい頷いた。