ひねくれ王子は私に夢中
その苦しみを
制服に着替えた沙良は秀司と外の屋台を回り、女子バレー部がテントの下で販売していたお好み焼きを買った。
正確には店頭に立っていた歩美と茉奈に見つかって買わされたのだが、元々買うつもりだったし、美味しいので問題はない。
沙良が左手で支えているプラスチックのフードパックにはお好み焼きと焼きそばが入っている。
これは箸をつける前に秀司が買った焼きそばと半分ずつ交換した結果だ。
(好きな人と食べ物のシェア。最高だな。幸せだなぁ)
晴れた青空の下、中庭のベンチに並んで腰掛け、よく冷えたペットボトルのお茶を飲みながらふふっと笑う。
花壇ではコスモスやガーベラが風に揺れていて、中庭の中央では噴水が噴き上がっている。
さきほど屋台を回っていたとき、眼鏡をかけた優しそうな男子と仲良く手を繋いで歩く小林を見かけた。
小林は沙良たちに気づいてぺこりと頭を下げ、幸せそうな顔で彼氏と歩いて行った。
屋台近くの広場、文化祭のためにいくつも並べられたベンチの一つでは制服姿に戻った瑠夏と大和が座っていた。
瑠夏は相変わらずクールで、笑顔の大和に話しかけられていても無表情でタコ焼きを食べていたが、彼女が本気でつまらないと思っているのかそうではないのかくらいわかる。
嫌いな相手に自分が食べているタコ焼きを差し出したりはしないだろう。
(いいなあ、こういうの。ずっとこのまま平和だったらいいのに……)
どんなに幸せであっても、西園寺という名前が頭にこびりついたまま消えてくれない。
ついため息をつきそうになり、隣に秀司がいることを意識して堪えた。
(いけない、笑顔、笑顔。秀司に勘づかれるわけにはいかないわ)
「ごちそうさま。お好み焼きも焼きそばも美味しかった。ねえ、私もポテトもらってもいい? 味見してみたい」
空になったフードパックを輪ゴムで閉じてビニール袋の中に入れ、笑顔で秀司に尋ねる。
「どうぞ」
秀司は左手に持っていたポテトを沙良に差し出した。
「ありがとう。……うん、美味しい。塩加減が絶妙だわ。これを作った女子バスケ部の子は料理人になれるんじゃないかしら」
食べ終えたタイミングを見計らって差し出された使い捨てのおしぼりを受け取り、手を拭く。
本当に彼は気が利く人間だ。
「かもな」
噴水のほうへ視線を投げている秀司は気のない返事を寄越した。
彼の視線を追ってみると、彼は噴水の向こうにいる仲睦まじいカップルを見ているようだ。
ふざけた調子で彼氏に抱き着かれた彼女は「ちょっともお、たーくんったらあ。止めてよお」とか言っているが、その表情は嬉しそうである。
「どうしたの? 気になることでもあるの?」
まさか自分たちもあのバカップルのようになろう、とか言い出すわけではあるまい。
「別に」
秀司はこちらを見ようとしない。
右手だけが動き、自動的にポテトを口に運んでいるような状態だ。
「嘘でしょう。何かあるんだったら言ってよ。私は秀司の力になりた――」
「その台詞、そっくりそのまま返したいんだけど」
空になったポテトの袋をゴミ用のビニール袋に入れて、ようやく彼がこちらを見た。
「さっきだって、誰を探してたんだよ。何か隠してることがあるだろ。俺に」
おしぼりで汚れた手を拭きながら秀司が言う。
正確には店頭に立っていた歩美と茉奈に見つかって買わされたのだが、元々買うつもりだったし、美味しいので問題はない。
沙良が左手で支えているプラスチックのフードパックにはお好み焼きと焼きそばが入っている。
これは箸をつける前に秀司が買った焼きそばと半分ずつ交換した結果だ。
(好きな人と食べ物のシェア。最高だな。幸せだなぁ)
晴れた青空の下、中庭のベンチに並んで腰掛け、よく冷えたペットボトルのお茶を飲みながらふふっと笑う。
花壇ではコスモスやガーベラが風に揺れていて、中庭の中央では噴水が噴き上がっている。
さきほど屋台を回っていたとき、眼鏡をかけた優しそうな男子と仲良く手を繋いで歩く小林を見かけた。
小林は沙良たちに気づいてぺこりと頭を下げ、幸せそうな顔で彼氏と歩いて行った。
屋台近くの広場、文化祭のためにいくつも並べられたベンチの一つでは制服姿に戻った瑠夏と大和が座っていた。
瑠夏は相変わらずクールで、笑顔の大和に話しかけられていても無表情でタコ焼きを食べていたが、彼女が本気でつまらないと思っているのかそうではないのかくらいわかる。
嫌いな相手に自分が食べているタコ焼きを差し出したりはしないだろう。
(いいなあ、こういうの。ずっとこのまま平和だったらいいのに……)
どんなに幸せであっても、西園寺という名前が頭にこびりついたまま消えてくれない。
ついため息をつきそうになり、隣に秀司がいることを意識して堪えた。
(いけない、笑顔、笑顔。秀司に勘づかれるわけにはいかないわ)
「ごちそうさま。お好み焼きも焼きそばも美味しかった。ねえ、私もポテトもらってもいい? 味見してみたい」
空になったフードパックを輪ゴムで閉じてビニール袋の中に入れ、笑顔で秀司に尋ねる。
「どうぞ」
秀司は左手に持っていたポテトを沙良に差し出した。
「ありがとう。……うん、美味しい。塩加減が絶妙だわ。これを作った女子バスケ部の子は料理人になれるんじゃないかしら」
食べ終えたタイミングを見計らって差し出された使い捨てのおしぼりを受け取り、手を拭く。
本当に彼は気が利く人間だ。
「かもな」
噴水のほうへ視線を投げている秀司は気のない返事を寄越した。
彼の視線を追ってみると、彼は噴水の向こうにいる仲睦まじいカップルを見ているようだ。
ふざけた調子で彼氏に抱き着かれた彼女は「ちょっともお、たーくんったらあ。止めてよお」とか言っているが、その表情は嬉しそうである。
「どうしたの? 気になることでもあるの?」
まさか自分たちもあのバカップルのようになろう、とか言い出すわけではあるまい。
「別に」
秀司はこちらを見ようとしない。
右手だけが動き、自動的にポテトを口に運んでいるような状態だ。
「嘘でしょう。何かあるんだったら言ってよ。私は秀司の力になりた――」
「その台詞、そっくりそのまま返したいんだけど」
空になったポテトの袋をゴミ用のビニール袋に入れて、ようやく彼がこちらを見た。
「さっきだって、誰を探してたんだよ。何か隠してることがあるだろ。俺に」
おしぼりで汚れた手を拭きながら秀司が言う。