ひねくれ王子は私に夢中
「俺はてっきり沙良がよからぬ輩《やから》に脅されてるのかと……本当に良かった。沙良自身の問題じゃないならそれでいいよ。あーもう、もったいぶるなよ、ビビったじゃん」
「いやいやいや!? もったいぶって当然でしょう!?」
彼の反応があまりにも予想外すぎて停止していた思考回路が動き始めると同時、沙良は早口でまくしたてた。
「自分の人生を無茶苦茶にした女が来襲するかもしれないのよ!? 大事件でしょう!? 私は秀司がショック受けるんじゃないかって、心配で心配で堪らなかったのよ!? もし秀司狙いで西園寺さんが来たらどうしよう、どうやってクラスの皆と撃退しようって頭の中で何度もシミュレーションしたんだからね!?」
「クラスの奴らにも協力を仰いでくれたんだ。ありがとう」
「いえ、クラスの皆も巻き込もうって言い出したのは私じゃなくて遠坂さんだから、お礼なら彼女に言ってちょうだい」
微笑む秀司に、沙良はきっぱりと言った。
「自分の手柄にしないあたり、沙良って真面目だよな。わかった。遠坂さんにもお礼を言っとく。でもやっぱり一番礼を言わなきゃいけないのは沙良だよ。これまでずっと俺のことを考えてくれてたんだからな」
「……大丈夫?」
空元気なのではないかと不安になって、沙良はじっと秀司の目を見つめた。
「んー。まあ、正直に言うとあいつが来るのは嫌だな。すごく嫌。死ぬほど嫌」
「でしょうね……」
沙良は目を伏せた。
吹きつけてきた風が前髪を揺らし、頬を撫でて通り過ぎていく。
「何のために来るのか知らないけど、目的が俺なら怒りを通り越して笑えるな。もしまた告白なんかされたら反射的に手が出るかも」
「そ、それはダメよ? 気持ちはわかるけど絶対ダメ。たとえどんな事情があろうと、手を出したら秀司が悪者になっちゃう」
慌てて言うと、秀司は笑った。
「そうだな。だから、俺が暴走しないように見張ってて」
落ち着いた声と共に、手を強く握られて、心臓が跳ねた。
「俺の傍にいて。俺のことを一番に考えてくれる沙良がいるなら大丈夫だから」
「あ、当たり前でしょう」
ドギマギしながら答える。
繋いだ手から感じる彼の体温が、皮膚の感触が、沙良の心拍数を増大させる。
鏡を見なくても、自分の顔が真っ赤であろうことは予想がついた。
「私は秀司の彼女なんだから。秀司が嫌だっていっても、噛みついたすっぽんみたいにくっついて離れないからね。もし西園寺さんが来ても、誰が彼女なのかわからせてやる。絶対に撃退してみせるんだから」
「頼もしいな」
秀司は笑って、それきり何も言わなかった。
その眼差しは遠く、ここではないどこかを見ているようだ。
秀司がいま何を考えているのか、沙良にはわからない。けれど。
(秀司の苦しみを、悲しみを、憤りを――私は少しでも担いたいわ)
彼の手を強く握り返す。
手を繋いだまま、しばらく沙良たちは黙って風に吹かれた。
「いやいやいや!? もったいぶって当然でしょう!?」
彼の反応があまりにも予想外すぎて停止していた思考回路が動き始めると同時、沙良は早口でまくしたてた。
「自分の人生を無茶苦茶にした女が来襲するかもしれないのよ!? 大事件でしょう!? 私は秀司がショック受けるんじゃないかって、心配で心配で堪らなかったのよ!? もし秀司狙いで西園寺さんが来たらどうしよう、どうやってクラスの皆と撃退しようって頭の中で何度もシミュレーションしたんだからね!?」
「クラスの奴らにも協力を仰いでくれたんだ。ありがとう」
「いえ、クラスの皆も巻き込もうって言い出したのは私じゃなくて遠坂さんだから、お礼なら彼女に言ってちょうだい」
微笑む秀司に、沙良はきっぱりと言った。
「自分の手柄にしないあたり、沙良って真面目だよな。わかった。遠坂さんにもお礼を言っとく。でもやっぱり一番礼を言わなきゃいけないのは沙良だよ。これまでずっと俺のことを考えてくれてたんだからな」
「……大丈夫?」
空元気なのではないかと不安になって、沙良はじっと秀司の目を見つめた。
「んー。まあ、正直に言うとあいつが来るのは嫌だな。すごく嫌。死ぬほど嫌」
「でしょうね……」
沙良は目を伏せた。
吹きつけてきた風が前髪を揺らし、頬を撫でて通り過ぎていく。
「何のために来るのか知らないけど、目的が俺なら怒りを通り越して笑えるな。もしまた告白なんかされたら反射的に手が出るかも」
「そ、それはダメよ? 気持ちはわかるけど絶対ダメ。たとえどんな事情があろうと、手を出したら秀司が悪者になっちゃう」
慌てて言うと、秀司は笑った。
「そうだな。だから、俺が暴走しないように見張ってて」
落ち着いた声と共に、手を強く握られて、心臓が跳ねた。
「俺の傍にいて。俺のことを一番に考えてくれる沙良がいるなら大丈夫だから」
「あ、当たり前でしょう」
ドギマギしながら答える。
繋いだ手から感じる彼の体温が、皮膚の感触が、沙良の心拍数を増大させる。
鏡を見なくても、自分の顔が真っ赤であろうことは予想がついた。
「私は秀司の彼女なんだから。秀司が嫌だっていっても、噛みついたすっぽんみたいにくっついて離れないからね。もし西園寺さんが来ても、誰が彼女なのかわからせてやる。絶対に撃退してみせるんだから」
「頼もしいな」
秀司は笑って、それきり何も言わなかった。
その眼差しは遠く、ここではないどこかを見ているようだ。
秀司がいま何を考えているのか、沙良にはわからない。けれど。
(秀司の苦しみを、悲しみを、憤りを――私は少しでも担いたいわ)
彼の手を強く握り返す。
手を繋いだまま、しばらく沙良たちは黙って風に吹かれた。