ひねくれ王子は私に夢中
(……拍手喝采だと秀司が認めた。ということは、賭けは私の勝ちってことでいいのよね? つまり……)
 いまだに現実が信じられず、足元がふわふわしている。

「ありがとうございました!」
 秀司は観客に向かって笑顔で両手を振り、女性の黄色い声を浴びながら舞台の下手へと向かった。

 夢見心地の沙良はそんなことをする余裕もなく、親鳥の後を追うひよこのように、ただ秀司の後について歩いた。
「お疲れ様。素晴らしいダンスだったよ」
 舞台の下手では大和が笑顔で迎えてくれた。

「カップル成立おめでとう」
 こちらにタオルを渡しながら大和が言う。

「あ、ありがとう……で、いいのよね?」
 沙良はタオルを受け取り、両手に持ったまま秀司を見た。

「いまから私は秀司の彼女ってことでいいのよね? 偽じゃなく、本物の」
「あれだけの拍手をもらっといて、確認する必要ある?」
 顔の汗を拭いながら秀司が苦笑する。

「だって。ちゃんと言葉にしてくれないとわからないわよ」
 一人だけ余裕な態度が気に入らず、ムッとして言う。

「ほら、秀司。ちゃんと言えって!」
 大和がばしんと秀司の背中を叩いた。

「いって。わかった。賭けは俺の負けだしな」
 秀司はタオルを首に引っ掛けた状態で沙良の正面に立ち、右手を差し伸べた。

「花守沙良さん。俺の彼女になってください」

 沙良の目をまっすぐに見つめて、秀司は真摯な口調でそう言った。

(……これは夢なのかしら)
 完全に無視された入学式の日からは考えられないような未来にいることを自覚して、目から涙が溢れる。

「……はい」
 瞳を潤ませながら、沙良は彼の手に自分の右手を乗せ、その手をしっかり握った。
 秀司もまた、その手を強く握り返してくれた。

「おめでとー」
 大和が明るく笑う。
 照れくさくなり、沙良はタオルを掴んで自分の顔に押し当てた。

(感動に浸るのは後にしないと。人前で号泣するわけにはいかないわ)
 乱れ狂う感情の波を苦労して落ち着け、沙良はふと気づいて辺りを見回した。
 舞台の袖にいるのは文化祭のスタッフ数名だけで、瑠夏がいない。

「瑠夏は?」
「ああ。長谷部さんなら、西園寺さんと話したいからって、秀司たちのダンスを見届ける役を俺に任せて行っちゃったよ」
 苦笑する大和を見て、沙良と秀司は思わず顔を見合わせた。

 きっと、いま秀司は脳内で沙良と同じ想像図を描いている。

 すなわち――普段かけているリミッターを外した瑠夏の全力全開の毒舌攻撃を受けて、尻尾を巻いて逃げる西園寺の姿を。
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