ひねくれ王子は私に夢中
 十五分後、沙良たちは多くの生徒が集う食堂の二階で食後のデザートを食べていた。

「うん、美味しい」
 幸せそうな顔で秀司が食べているのは沙良の作ったモンブランケーキだ。

 あのモンブランケーキには市販のマロンペーストではなく茹でた栗を使っていた。

(ひとつひとつ、ちまちま皮を剝いて、茹でて、フードプロセッサーでペーストにして、口金をつけた絞り袋で絞り出して……大変だったなぁ)

 理想の味と形を追求し、試行錯誤した一週間を振り返る。

 作るには一週間かかったが、食べるには五分も要らない。

 それでも、秀司が喜んでくれるのならどんな苦労も帳消しだ。

 この笑顔が見られるのならば、沙良はそれこそなんだってするだろう。

(毎回苦労に見合うほどのお返しをもらってるしね)
 今回秀司がお返しにとくれたのは偶然にも沙良と同じく栗を使ったマロンスイーツだった。

 香ばしい香りが食欲を大いに刺激し、口に入れれば栗の甘さと旨さが広がる贅沢な焼き菓子。

 恐らく自分で買うことは一生ないだろう高級な焼き菓子を噛みしめ、嚥下する。
 氷の浮いた水を飲みながら、沙良は食堂の一階に目を向けた。

 食堂の一階では名前の知らない生徒たちに交じって、瑠夏が歩美たちのグループと談笑している。

 今日は瑠夏のほうから「お昼一緒に食べていいかしら」と歩美たちに声をかけていた。

 その変化がとても嬉しい。

 教室では大和とよく話している姿を見かける。

 沙良としてはこのまま二人がくっつけばいいのに、なんて思っていたりする。

 沙良が言えた義理ではないが、瑠夏も相当面倒くさい女なので、大和のように寛仁大度な人間でなければ受け止め切れないだろう。

「文化祭が終わってもう二週間か。時間経つのは早いな」
 秀司が発言したため、沙良は視線を戻した。
 秀司の前のモンブランケーキは残り三分の一まで減っている。

「そうね。『大衆賞』を受賞できたのは予想外だったわ」
 参加した有志団体の中で人気投票の得票数が最も多かったらしく、沙良たちは金色のメダルを貰った。

「ダンスを頑張ったのは秀司の彼女になりたかったから。そんな不純な動機でメダルを貰っていいのかしらとは思ったけれど」
「動機がどうあれ頑張ったのは事実なんだから、気にしなくていいだろ。メダルはその頑張りを正当に評価された結果だ。ありがたく受け取って、部屋にでも飾っておけばいい」
「もう飾ってるわ」

「俺も。自分の部屋に飾ってる」
 微笑むと、秀司もまた微笑んだ。
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