ひねくれ王子は私に夢中
「そうなの。なんだか嬉しい。秀司は何でも1位だから、メダルもトロフィーもたくさん貰ってるでしょう? あのメダルは机の引き出しにでも放り込まれてるか、最悪、捨てられたかと思ってたわ」
「捨てるわけないだろ。沙良との大事な思い出なんだから」
 若干怒ったような口調で言われて、沙良は目を丸くした。

「この先も、ずっと大事にするよ」
 秀司は視線と声のトーンを落とし、フォークでモンブランケーキを切り裂いた。

「……私も。大事にするわ」
 照れくさくなり、沙良は話題を変えた。

「ところで、ねえ。秀司」
「なんだよ、改まって」
 口の中のモンブランケーキを飲み込んでから、秀司が不思議そうな顔でこちらを見る。

「もし踊り終えた後に観客からブーイングを浴びてたら、私に何を要求するつもりだったの?」
「なんだ、その話か。いいだろ、拍手喝采で終わったんだから」
「良くないわよ。気になる」
 秀司は逃げるように手元のモンブランケーキに視線を落としたが、沙良は無言で彼を見つめ続けた。

 それこそ、彼が音を上げるまで、じっと。

「……彼女になって、って。言うつもりだった」
 やがて、小さな声で秀司は白状した。

「え。じゃあ、どっちに転んでも結果は同じだったってこと?」
 きょとんとする。

「そうだよ。当たり前だろ。観客の反応が芳しくなかったから、やっぱり彼女にはなれません、なんて、許せるか。やっと沙良が自分から付き合いたいって言ってくれたんだ。このチャンスを逃がして堪るかって、こっちも必死だったんだよ」
 恥ずかしいらしく、秀司は目を泳がせた。

 その頬はほんのり赤くなっている。

(そんなこと思っててくれたんだ……)
 胸の奥が熱くなった。

「……いっつも余裕ぶってるけど、本当は秀司って照れ屋なの?」
 笑みを堪えつつ、テーブルに上体を乗り出して顔を近づける。

「うるさいな。これまで人を本気で好きになったことなんかないから、どういう対応すればいいのかわからないんだよ」
 秀司は頬を赤く染めたまま水を飲んだ。

「え。本当に? 私が初彼女だなんて、意外過ぎるんだけど。そのルックスなら『女子百人斬り』とかしててもおかしくないのに」
「なんだそれ? 沙良は俺をそんな奴だと思ってたのかよ」
 秀司は不満げな顔で沙良を睨み、また目を逸らした。

「小学生のときは女子と話すより、大和たちとゲームしてるほうが楽しかったし。中学ではアイドルとして振る舞ってたから。彼女なんて作れるわけないだろ」

「ああ、そうか。彼女がいたらアイドルはできないものね」
 納得して頷き、考える。
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