婚約に至らない私の呪いは溺愛してくる義兄の策略でした
幕間3 リリーナ・ローワン曰く
<幕間3> リリーナ・ローワン曰く
──まぁなんて素直で可愛らしい子なのかしら、小賢しい私の娘とは大違い。
ブラストラーデ侯爵夫人・オリヴィアは、美しく整えられた指の先でリリーナの薔薇色の頬を撫でて、彼女の小ぶりな耳にそれらの呪文を吹き込んだ。
リリーナは彼女の娘であるソフィアから酷い言葉を浴びせかけられた。ルシアスに近づいてはいけない。話をしてもいけないと言われ、思い出のカフスまで取り上げられてしまった。
ソフィアは養母であるローワン伯爵夫人にも何事か言いつけたようで、養母は顔を真っ赤にして怒り、リリーナはルシアスへ真実を問うための手紙を書くことも禁じられ、些細な外出すらどこへ何をしに行くのか説明しなくてはならなくなって、とても窮屈な思いを強いられた。
耐えかねて屋敷の外にこっそり抜け出したリリーナが、オリヴィアの馬車に引き込まれたのはそんな折だ。
カーテンを降ろした薄暗い馬車の中で、白く浮かび上がるような美しいオリヴィアにリリーナは見惚れた。
オリヴィアはリリーナをたくさん褒めて、娘のソフィアを貶してくれた。
小賢しいとは、利口ぶって生意気だということだ。
実の母親にさえそんなことを言われるということは、ソフィアという人は、きっとお人形のような見た目とは裏腹に意地悪だったのだろうとリリーナは思った。
リリーナを産んだ母も意地悪だった。
意地悪で、ソフィアと似たようなことをよく言った。おまえの言うことはチグハグばかり、頭の中で勝手に話を作るのはやめなさい、とうんざりした顔をする。ローワン伯爵がリリーナを養女にと頼み込んだときも、母はリリーナを僻んでやめろやめろと言ったのだ。
ソフィアはとびきり綺麗で、それでいて気取ったところがなかったから、仲良くなれそうだと思っていたのに、結局母と同じことを言う意地悪だった。
妹のくせに、何の権限があってルシアスに会うななどと言うのだろう。リリーナはルシアスの妻になるのに。
ソフィアにはもう物語のように素敵な王子様がいる。なのに、まるでルシアスが自分のもののように振る舞うなんて。
──そんなの変だわ。
それを言うと、オリヴィアは、ソフィアは気が多くていけないのだと美しい眉をひそめた。
「本当にリリーナの言う通りだわ。ソフィアにはフィリップ殿下がいらっしゃる。殿下でなくてはならないのに……あのわからず屋ときたら。ルシアスは妹のわがままを聞いてやっているのでしょう」
「わがまま?」
「ええ。あれは一番に愛されていないと満たされないのね。兄も弟も、恋人も父親でさえも囲っておきたい。嗚呼可愛いリリーナ、あなたは愛されるために生まれてきたのだわ。ルシアスだって、可愛いあなたのほうがいいに決まっている。哀れなルシアスを助けてあげてくださいな」
やはりルシアスは優しいのだ。
茶会の時には美しい青い目を合わせてくれた。ルシアスは優しいから妹のわがままを聞いてやり、リリーナに嫉妬したソフィアから、会うなと言わされたに違いない。
あのメッセージカードもソフィアに脅されて書かされたのだろう。だってリリーナ宛とは書かれていなかったし、愚かな顔を見せるなだなんて、とても恐ろしい言葉だった。
──可哀想なルシアス様。
オリヴィアが言うのだから間違いない。
リリーナはオリヴィアから言われた通りのことを頭の中で何度も繰り返して、言われた通りの刻限に屋敷を抜け出し、言われた通りの場所に向かった。
そこでルシアスがリリーナを待っている。きっと。
順序も理屈も何もかもがぐちゃぐちゃになっていることからリリーナは目を背け続けて、聞きたい言葉と見たいものだけを見て、そうやって人気のない裏通りに面したガラス窓を割って小さな家の中に忍び込んだ。
これでいい。
ソフィアは妹なのだからルシアスを囲い込むなどしてはならないし、ルシアスはリリーナと結婚するためにブラストラーデの家を出て、新しい屋敷を買ったのだし、オリヴィアはソフィアが間違っていて、リリーナにルシアスを助けてやってほしいと言った。
ルシアスからは何も聞いていないけれど。
阻まれているのだから仕方ない。
──なのに。
「おやおや、一体どこの誰がと思ってみれば、これは存外可愛らしい泥棒猫だ。しかし、窓を割って入り込むなんていけないね。他所のおうちにお邪魔するときは、事前にきちんと約束をして、玄関から礼儀正しくとママとパパに習わなかったかな?」
「誰……?」
リビングの長椅子にひとり長い脚を組んで腰掛けていたのは、リリーナが見たことのない青年だった。艶やかな栗色の髪に、ルシアスにも引けを取らない美しい顔立ちをしていたが、どこかそら恐ろしいものを感じる。
「ああ、申し遅れた。僕はウィリアム・オーウェルというよ、リリーナ嬢」
「……どうしてわたくしを知っているの?」
「そりゃあルシアスから聞いていたから」
「まぁ! わたくしが来ることを? やっぱりルシアス様はわたくしを待っていらしたのね」
「あはは! 待ってはいなかったけれど、来る可能性は予期してあったね。──僕がルシアスから言付かっていたことはひとつ、桃金色の髪の女が来たら、それは客ではないから必要なことだけ聞いて速やかに追い返せと言うことだ」
「ええ、わたくしは客ではありませんわ。ルシアス様の妻となる女です。むしろあなたがお客様なのかしら」
するとウィリアムと名乗った男は笑顔を引っ込めた。
「おお筋金入りだったか……。困ったなぁ、僕、優しいからキツいこと言えないのに」
「あの、失礼ですけどルシアス様はどちらですの? ここは、ルシアス様の隠れ家なのでしょう?」
「隠れ家? 隠れ家というか間借りしている執務室というか、いや、あれだね、ここは僕とルシェの愛の巣だ」
「愛の巣……?」
「よし! この作戦でいこう! 馬鹿には馬鹿をぶつけるに限る! ルシェとウィルはラブラブだから邪魔しないでね大作戦!」
この男が何を言っているのかよくわからなくなってきたところで、男は背後から現れた影に後ろ頭を叩かれた。
ルシアスだった。
「あて」
「くだらんことを言ってないで、さっさと必要な情報だけ得ろ」
「ルシアス様!」
喜色を滲ませ呼びかけたところで、ルシアスはリリーナを見もしなかった。
「いいじゃないか。だってもともとここは僕が君のために用立てた場所なんだし、愛の巣なのも間違いないだろ」
「おまえが、俺とソフィのために用立てた、だ。言葉遊びをしている場合か、時間が惜しい」
「ちぇ、つまんないね」
言ってウィリアムとルシアスは揃って冷たい視線をリリーナに向けた。
「では、本題に入ろうか。君は誰の差し金かな、お嬢さん」
「オリヴィア夫人か?」
「わ、わたくし、ルシアス様を助けに」
「問われたことにだけ答えろ。伝えたはずだ、接触を禁ずると。俺は本来貴様の顔すら見たくはないし、話もしたくない。貴様のせいでいらん怪我をしたうえ、ソフィアからの大事な贈り物にケチがついた」
リリーナは目を見張った。
ルシアスはこんなに酷い言葉を言う人だっただろうか。
「ルシアスはこの通りだから、一応緩衝材として僕がいるんだよね。さ、答えようか、リリーナ嬢。どこの誰に、今日この家が手薄になることを聞いたのかな?」
「オリヴィア様が……」
「そう。いい子だね。彼女はソフィアにも何かすると言っていたかい?」
「殿下と仲直りさせる、と。ちょっとしたケンカをなさったのですよね? オリヴィア様が仲直りの方法を考えたとおっしゃっていましたわ。わたくしがルシアス様の元に行く頃にはあの方たちも元の鞘に戻るだろうから、ルシアス様に……」
途端、ルシアスの纏う雰囲気が変わって、リリーナは思わず肩を震わせた。
目の前の彼は凍てついた氷のような冷たい雰囲気だったのに、そこにさらに恐ろしく燃え上がる怒気を感じる。
優しかったはずのルシアスが。
けれど、──果たして、ルシアスに優しくされたことなどあっただろうか。
「あの毒蛾め……!」
「何か仕組まれたか。あのご夫人にも困ったものだ。あのね、リリーナ嬢。わからんちんの君にもわかるように言うと、ソフィアは王子様とは結婚しないのだよ。ふたりはただの仲のいい友だちだから。ソフィアと結婚するのはこちらのルシアスだ」
「どうして? できないわ。おふたりは兄妹でしょう?」
「俺たちの間に血の繋がりはなく、俺はブラストラーデを廃嫡となった。俺が愛するのはソフィアただひとり、すべてはソフィアを妻として迎え入れるためだ。貴様とはなんの関係もない、これ以上その口を開くな。虫唾が走る」
「そん……そんな……」
「可哀想なリリーナ嬢。甘いお菓子みたいな言葉だけをくれる悪い魔女に唆されてしまったのだろうけど、君はもう少しだけ、夢の世界から現実を正しく見るべきだったね」
ああ、この人もだ。この人も、ソフィアも、お母様もみんな同じことを言う。現実を見ろと。
──正しい現実? これが?
「ティム! この鼠をローワンの屋敷に突き出せ、窓を割って侵入したことも漏らさず伝えろ」
ルシアスの低く鋭い声音に、リリーナは怯えた。
怖い。
──この人、とても怖いわ。
リリーナはその時になって初めて、ルシアスという男の顔を見たような気がした。
──まぁなんて素直で可愛らしい子なのかしら、小賢しい私の娘とは大違い。
ブラストラーデ侯爵夫人・オリヴィアは、美しく整えられた指の先でリリーナの薔薇色の頬を撫でて、彼女の小ぶりな耳にそれらの呪文を吹き込んだ。
リリーナは彼女の娘であるソフィアから酷い言葉を浴びせかけられた。ルシアスに近づいてはいけない。話をしてもいけないと言われ、思い出のカフスまで取り上げられてしまった。
ソフィアは養母であるローワン伯爵夫人にも何事か言いつけたようで、養母は顔を真っ赤にして怒り、リリーナはルシアスへ真実を問うための手紙を書くことも禁じられ、些細な外出すらどこへ何をしに行くのか説明しなくてはならなくなって、とても窮屈な思いを強いられた。
耐えかねて屋敷の外にこっそり抜け出したリリーナが、オリヴィアの馬車に引き込まれたのはそんな折だ。
カーテンを降ろした薄暗い馬車の中で、白く浮かび上がるような美しいオリヴィアにリリーナは見惚れた。
オリヴィアはリリーナをたくさん褒めて、娘のソフィアを貶してくれた。
小賢しいとは、利口ぶって生意気だということだ。
実の母親にさえそんなことを言われるということは、ソフィアという人は、きっとお人形のような見た目とは裏腹に意地悪だったのだろうとリリーナは思った。
リリーナを産んだ母も意地悪だった。
意地悪で、ソフィアと似たようなことをよく言った。おまえの言うことはチグハグばかり、頭の中で勝手に話を作るのはやめなさい、とうんざりした顔をする。ローワン伯爵がリリーナを養女にと頼み込んだときも、母はリリーナを僻んでやめろやめろと言ったのだ。
ソフィアはとびきり綺麗で、それでいて気取ったところがなかったから、仲良くなれそうだと思っていたのに、結局母と同じことを言う意地悪だった。
妹のくせに、何の権限があってルシアスに会うななどと言うのだろう。リリーナはルシアスの妻になるのに。
ソフィアにはもう物語のように素敵な王子様がいる。なのに、まるでルシアスが自分のもののように振る舞うなんて。
──そんなの変だわ。
それを言うと、オリヴィアは、ソフィアは気が多くていけないのだと美しい眉をひそめた。
「本当にリリーナの言う通りだわ。ソフィアにはフィリップ殿下がいらっしゃる。殿下でなくてはならないのに……あのわからず屋ときたら。ルシアスは妹のわがままを聞いてやっているのでしょう」
「わがまま?」
「ええ。あれは一番に愛されていないと満たされないのね。兄も弟も、恋人も父親でさえも囲っておきたい。嗚呼可愛いリリーナ、あなたは愛されるために生まれてきたのだわ。ルシアスだって、可愛いあなたのほうがいいに決まっている。哀れなルシアスを助けてあげてくださいな」
やはりルシアスは優しいのだ。
茶会の時には美しい青い目を合わせてくれた。ルシアスは優しいから妹のわがままを聞いてやり、リリーナに嫉妬したソフィアから、会うなと言わされたに違いない。
あのメッセージカードもソフィアに脅されて書かされたのだろう。だってリリーナ宛とは書かれていなかったし、愚かな顔を見せるなだなんて、とても恐ろしい言葉だった。
──可哀想なルシアス様。
オリヴィアが言うのだから間違いない。
リリーナはオリヴィアから言われた通りのことを頭の中で何度も繰り返して、言われた通りの刻限に屋敷を抜け出し、言われた通りの場所に向かった。
そこでルシアスがリリーナを待っている。きっと。
順序も理屈も何もかもがぐちゃぐちゃになっていることからリリーナは目を背け続けて、聞きたい言葉と見たいものだけを見て、そうやって人気のない裏通りに面したガラス窓を割って小さな家の中に忍び込んだ。
これでいい。
ソフィアは妹なのだからルシアスを囲い込むなどしてはならないし、ルシアスはリリーナと結婚するためにブラストラーデの家を出て、新しい屋敷を買ったのだし、オリヴィアはソフィアが間違っていて、リリーナにルシアスを助けてやってほしいと言った。
ルシアスからは何も聞いていないけれど。
阻まれているのだから仕方ない。
──なのに。
「おやおや、一体どこの誰がと思ってみれば、これは存外可愛らしい泥棒猫だ。しかし、窓を割って入り込むなんていけないね。他所のおうちにお邪魔するときは、事前にきちんと約束をして、玄関から礼儀正しくとママとパパに習わなかったかな?」
「誰……?」
リビングの長椅子にひとり長い脚を組んで腰掛けていたのは、リリーナが見たことのない青年だった。艶やかな栗色の髪に、ルシアスにも引けを取らない美しい顔立ちをしていたが、どこかそら恐ろしいものを感じる。
「ああ、申し遅れた。僕はウィリアム・オーウェルというよ、リリーナ嬢」
「……どうしてわたくしを知っているの?」
「そりゃあルシアスから聞いていたから」
「まぁ! わたくしが来ることを? やっぱりルシアス様はわたくしを待っていらしたのね」
「あはは! 待ってはいなかったけれど、来る可能性は予期してあったね。──僕がルシアスから言付かっていたことはひとつ、桃金色の髪の女が来たら、それは客ではないから必要なことだけ聞いて速やかに追い返せと言うことだ」
「ええ、わたくしは客ではありませんわ。ルシアス様の妻となる女です。むしろあなたがお客様なのかしら」
するとウィリアムと名乗った男は笑顔を引っ込めた。
「おお筋金入りだったか……。困ったなぁ、僕、優しいからキツいこと言えないのに」
「あの、失礼ですけどルシアス様はどちらですの? ここは、ルシアス様の隠れ家なのでしょう?」
「隠れ家? 隠れ家というか間借りしている執務室というか、いや、あれだね、ここは僕とルシェの愛の巣だ」
「愛の巣……?」
「よし! この作戦でいこう! 馬鹿には馬鹿をぶつけるに限る! ルシェとウィルはラブラブだから邪魔しないでね大作戦!」
この男が何を言っているのかよくわからなくなってきたところで、男は背後から現れた影に後ろ頭を叩かれた。
ルシアスだった。
「あて」
「くだらんことを言ってないで、さっさと必要な情報だけ得ろ」
「ルシアス様!」
喜色を滲ませ呼びかけたところで、ルシアスはリリーナを見もしなかった。
「いいじゃないか。だってもともとここは僕が君のために用立てた場所なんだし、愛の巣なのも間違いないだろ」
「おまえが、俺とソフィのために用立てた、だ。言葉遊びをしている場合か、時間が惜しい」
「ちぇ、つまんないね」
言ってウィリアムとルシアスは揃って冷たい視線をリリーナに向けた。
「では、本題に入ろうか。君は誰の差し金かな、お嬢さん」
「オリヴィア夫人か?」
「わ、わたくし、ルシアス様を助けに」
「問われたことにだけ答えろ。伝えたはずだ、接触を禁ずると。俺は本来貴様の顔すら見たくはないし、話もしたくない。貴様のせいでいらん怪我をしたうえ、ソフィアからの大事な贈り物にケチがついた」
リリーナは目を見張った。
ルシアスはこんなに酷い言葉を言う人だっただろうか。
「ルシアスはこの通りだから、一応緩衝材として僕がいるんだよね。さ、答えようか、リリーナ嬢。どこの誰に、今日この家が手薄になることを聞いたのかな?」
「オリヴィア様が……」
「そう。いい子だね。彼女はソフィアにも何かすると言っていたかい?」
「殿下と仲直りさせる、と。ちょっとしたケンカをなさったのですよね? オリヴィア様が仲直りの方法を考えたとおっしゃっていましたわ。わたくしがルシアス様の元に行く頃にはあの方たちも元の鞘に戻るだろうから、ルシアス様に……」
途端、ルシアスの纏う雰囲気が変わって、リリーナは思わず肩を震わせた。
目の前の彼は凍てついた氷のような冷たい雰囲気だったのに、そこにさらに恐ろしく燃え上がる怒気を感じる。
優しかったはずのルシアスが。
けれど、──果たして、ルシアスに優しくされたことなどあっただろうか。
「あの毒蛾め……!」
「何か仕組まれたか。あのご夫人にも困ったものだ。あのね、リリーナ嬢。わからんちんの君にもわかるように言うと、ソフィアは王子様とは結婚しないのだよ。ふたりはただの仲のいい友だちだから。ソフィアと結婚するのはこちらのルシアスだ」
「どうして? できないわ。おふたりは兄妹でしょう?」
「俺たちの間に血の繋がりはなく、俺はブラストラーデを廃嫡となった。俺が愛するのはソフィアただひとり、すべてはソフィアを妻として迎え入れるためだ。貴様とはなんの関係もない、これ以上その口を開くな。虫唾が走る」
「そん……そんな……」
「可哀想なリリーナ嬢。甘いお菓子みたいな言葉だけをくれる悪い魔女に唆されてしまったのだろうけど、君はもう少しだけ、夢の世界から現実を正しく見るべきだったね」
ああ、この人もだ。この人も、ソフィアも、お母様もみんな同じことを言う。現実を見ろと。
──正しい現実? これが?
「ティム! この鼠をローワンの屋敷に突き出せ、窓を割って侵入したことも漏らさず伝えろ」
ルシアスの低く鋭い声音に、リリーナは怯えた。
怖い。
──この人、とても怖いわ。
リリーナはその時になって初めて、ルシアスという男の顔を見たような気がした。