なぜか軟禁されていました〜乙女ゲーム世界に転生したのにっ⁉︎

9

また一日が始まる。

昨日は泣き疲れて、そのまま寝てしまっていた。

洗濯物を取り込むのを忘れたことを思い出して、取り込む為に外に出る。


洗濯物といっても、タオルや下着と替えの服くらいなので、あっという間に片付く。

家に戻ろうとした時、ふと、意味もなく門の方を振り向いた。

「!」

「元気そうだな」

そこには、カイン様が立っていた。

夢でも見ているのだろうか。

「今日も暑くなりそうだな。リィーン、
食事はすんだか?」


「カイン…様」

リィーンは、突然の訪問者に驚いて、声が上擦っていた。



「もしまだなら、良ければ一緒に食べないか?」

「え?」


…む…無理です。人様にお出しできるものなんてありませんっ


そもそも、自分でさえ食いつなぐので精一杯なのに、どうしよう……

でも、助けていただいたお返しはしたいし、何て答えよう。


リィーンは、再びこうしてカインが訪れてくれたことがたまらなく嬉しかった

一人過ごしている日々が、たまらなく寂しく感じていたから━━それは、たぶんカイン様と出会ってしまったから

指で自分の腕をそっとつねると、痛みを感じる

これは、夢ではない

リィーンは、動揺している気持ちを悟られないように、

必死に無難な返答を考えた。

「あ、あいにく食材がなくて」



「心配ない。私もまだなので買ってきた。
リィーンが良ければ、その…
一緒にいいだろうか?」

カインは、手に持っていたカゴを掲げて見せる

「中に入ってもいいか?」

ふんわりと美味しそうな匂いが漂う

思わずお腹が鳴りそうになり、今は鳴りませんようにと必死に心の中で唱える

自分のことを、覚えていてくれたカイン様。


その優しさが嬉しすぎて、どうしたらよいか分からない。

戸惑い、何も答えられないでいた

「今日も日差しが強くなりそうだ。また倒れられても困る。良ければ中で話そう」

カインはリィーンの返答を待たずに、玄関のドアを開け、リィーンが中へ入るのを待つ。

「は、はい」

カインが扉を押さえてくれていたので、リィーンは慌てて家に戻ることにした。


カインは、テーブルの上にカゴを置き、中から何かを取り出していた。

リィーンはカゴの中身に興味津々で、カインに思わず尋ねる。

「カイン様、それは何ですか?」

「パンとスープだ。安価で美味しいと後輩に聞いた」


思いがけない出来事に驚いて、思わず無意識につぶやいていた。

「スープ?」

今世では、水以外のものを飲んだことがない。

「あ、ありがとうございます」

リィーンは戸惑いながらも、お礼を伝える。

カインは、一つづつ包まれたパンをテーブルに並べる

「リィーン、カップを借りてもいいか?」

「は、はい」

リィーンは慌ててカップを取りに行く。カップを手渡すと、カインは容器からスープを注ぐ



リィーンとカインは、小さなテーブルに向かい合わせに座った。

「では、いただこう」

「いただきます」

リィーンは包みを手に取り、丁寧にめくった。

『!』

包み紙の中はサンドイッチだった。

今まで私が食べていた固いパンとは全然違う。

クロワッサン 生地にベーコンと野菜とポテトサラダが挟まっていた。

初めて見るものに興奮して、一口かじる。「おいしい」

思わず満面の笑みが溢れる

ふと、視線を感じて顔を上げると、カイン様と目がぱちりと合う。

まるで子供のように無邪気に食べていたことに、急に恥ずかしくなる

「あ、ありがとうございます、とても美味しいです、カイン様」



「そうか、気に入ってくれて良かった」

カインは満足そうに微笑み、食べ始める

あっという間にパンを食べ終えると、スープを一口飲んでみる。

コーンスープだった

スープの温かさが、胃から全身に沁み渡るようだった。

温かい



「外は暑いから、冷たい飲み物にしようか悩んだが━」


カインが話しかけていることに、気づかずにリィーンは黙々とスープを口にする。


こんな風に、普通に食事をたべられるなんて夢を見ているようだった。

例えようのない感情に、胸がしめつけられるようだった。


感情が抑えられずに、一筋の涙が頬から溢れ出す。



「リィーン…? 」

カインはリィーンのその様子を見つめて、何かを言いかけていたが、そのまま押し黙った。

カインは、ギュッと強く自分の拳を握りしめる。

「あ、あの、すみません。この涙は、何でも……なくて、ただ、
おいしくて…」

リィーンはカインに心配をかけまいと、
慌てて顔を逸らす 

しどろもどろになりながら、俯いたまま答えていた。

気持ちをなんとか落ち着けて、残りのスープも飲み干した。

すると、カインは自分のスープリィーンの方へと差し出してきた。

「その、き、今日は、私は、スープの気分じゃない。わがままを言って申し訳ないが、その、リィーンが良ければ、
代わりに、飲んでくれないか?」



「え?」

きょとんとするリィーンの手に、カインはカップを持たせる。

リィーンは戸惑い、スープとカインを交互に見る。

カインは、ただ、黙って頷いていた。

リィーンは、カインのお言葉に甘えて、スープを飲むことにした。

カインから渡されたスープは、先程よりもほんのりと温かく感じた。

「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです!」

お礼を伝えると、カインはとても嬉しそうだった。
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