俺達の恋物語



孝太郎はこの新聞販売店で働きながら予備校にも通っている。来年は東京大学を受験する予定だ。周りから見ればただの新聞奨学生かもしれないが、彼には夢がある。限られた時間の中で勉強を重ね、いつか東大に合格することを目指している。店の店長もかつては同じ夢を抱いていたらしい。店長は東大を目指して四浪したが、結局その夢は叶わず、新聞販売店の道を選んだという。彼の過去を知った時、孝太郎は複雑な気持ちになった。店長は時折、「あの頃は本気で東大に行くつもりだった」と遠い目をして語るが、その後悔の色がどこか切なく映る。この店で働いている人たちは、皆どこか特別なものを持っている。学歴も経歴も様々で、まるで生きた辞書のような知識や経験を持っている人ばかりだ。東大を目指して挫折した店長も、地方の名門高校出身の先輩も、そしてボクシングでプロを夢見る鏡竜太も。それぞれが異なる夢を追い、異なる道を選び、ここに集まっている。孝太郎にとって、この店はただのバイト先ではなく、人生について考える場でもあった。定年後も働き続ける小林正隆さん――66歳の彼は、どこか父親のような存在だ。ある夜、彼に誘われて、馴染みの居酒屋の暖簾をくぐった。小林さんは俺にとって、ただの同僚以上の存在だった。人生経験も豊富で、どんな時でも一言が重みを持つ。
「勉強してるか?」と小林さんが問いかける。「見てると、お前、予備校から帰って仕事を終えたら、すぐ寝てるよな」
図星だった。勉強と仕事の両立は、想像以上にハードで、つい体が先に疲れてしまう。それでも、東大合格という夢を諦める気はない。
「まぁ、少しはやってますけど、正直キツいですね」と苦笑いしながら答える俺に、小林さんは軽く笑った。
「そうか。でも、あんまり無理すんなよ。人生は長いんだ。俺も若い頃はいろいろとやったけど、夢ってのは簡単じゃない。でも、やるだけやってみる価値はあるさ」
小林さんの言葉には、彼が歩んできた長い人生がにじみ出ていた。
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