俺達の恋物語



一浪するのは目に見えている。孝太郎は九州、熊本県の出身だ。優香は東京生まれの東京育ちで、二人はその環境の違いをしばしば話題にする。孝太郎は優香に実家に戻らないのか尋ねると、彼女は首を横に振り、次いで縦に振った。
「実家には戻りたくないの?」と、俺が促すと、優香は少し考えた後に口を開いた。「うん、戻りたい気持ちもあるけど、今はここでの生活が楽しいから。勉強も仕事も充実してるし、友達もできたし。」
孝太郎は、その言葉に安堵の表情を浮かべた。彼は自分が東大を目指していることをしっかりと自覚していて、将来に光を見出していた。しかし、その影にはプレッシャーも潜んでいる。孝太郎は自分の選んだ道が、他の人々からの期待に応えるものであると同時に、自分自身の人生を選ぶ権利をも持っていることを理解していた。
「でも、先輩たちの忠告も耳に入ってるだろ? 一度断念したら、日本では新卒=就職というレールから外れて、非正規雇用の身分になってしまうかもしれない。そうなると、どんなに努力しても、理想の未来が手に入らなくなる可能性もあるんだぞ。」孝太郎は真剣な表情で言った。優香はそれを聞いて、少し考え込んだ。「確かに、そういう現実もあるかもしれないね。でも、私は今を大切にしたい。未来のことを心配しすぎて、今の楽しみを見失いたくないんだ。」
その言葉には、彼女の生き方が反映されていた。過去の経験から、目の前の一瞬を大切にすることの重要性を学んだのかもしれない。孝太郎は、そんな優香の姿に感銘を受けた。夢や目標を追いかけることは大切だけれど、同時にその瞬間を楽しむこともまた人生の一部であることを理解した。
「俺も、今を大切にするようにしようかな」と孝太郎は小さく呟いた。それを聞いた優香は笑顔で頷き、「そうだよ、無理しないで一緒に楽しもう!」と励ますように言った。二人のやり取りの中で、少しずつ未来への不安が和らいでいくのを感じた。
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