ReTake2222回目の世界の安田雄太という世界線

第9章 社会人 新婚&旅行&嫉妬

 僕の無断欠勤は、熱が出たと言うと感染症の疑いが濃厚になるので、ひどい下痢と嘔吐を繰り返して連絡できなかった事を病院に謝罪した。病院からも何度か電話をくれたようだが、今後は連絡くらいはするように注意された程度で収まった。
 僕はなんだか強くなった気がした。前だったら無断欠勤した後で怒られるなんて、すっごく大きな事だったけれど、ちょっと無敵な僕になっている。あんな夜の後だし、こう子さんと結婚できる事になった次の日だから。

 数日後、こう子さんのお母さんとお姉さんに謝るのと同時に、家族全員にこう子さんと二人で結婚する報告をした。お父さんがお寿司を出前で取ってくれた。
 お父さんは結婚式について、盛大に援助はすると言ってくれたけれど、僕とこう子さんの中では、こじんまりにしたいという希望がある事を伝えた。
 お父さんは少し残念そうだったけれど、お姉さんが「時代が違う」と援護射撃をくれたり、お母さんが「あんたの結婚式じゃない」ととどめを刺してくれたので、お父さんはしぶしぶ了解してくれた。
 札幌にいる僕のお父さんにも連絡をすると、次の週末には連休を取って帰るので、一度こう子さんのご両親にご挨拶に行きたいからスケジュール調整をするように言われた。

 お父さんが札幌から戻った夜に、僕とこう子さんはお父さんとご飯を食べた。外食じゃなくて、お父さんが買ってきたカニを食べた。
 何も会話がなく、静まりかえって黙々とカニを食べていた3人だったけど、お父さんが笑い出した。「今日のこの場に、カニは向いていなかったかもな」と言った。
 お父さんは札幌支所の責任者になる可能性が高く、しばらくは東京に戻れない事。このマンションの購入ローンは前倒しで完済しており、今は処分するつもりは無い事。
 お父さんが逆出張で東京に戻った時に泊まる部屋として、お父さんの部屋を残しておいてくれれば、二人がこのマンションで暮らすことを希望したい気持ちがある事。
 僕とこう子さんも、2LDKのマンションなので僕の部屋をベッドルームにして、二人だから十分という話をした。
 こう子さんの今後のキャリアはまだ未確定だけど、子供は今すぐと考えていないので、しばらくはこのマンションで生活させてもらう事になった。
 
 こう子さんのお父さんが気に入っている本格四川料理屋さんに、全員が集まった。こう子さんは、辛いのが苦手だから嫌がるかと思ったけれど、今日は食事が目的って訳ではないからすんなり受け入れた。
 丸い大きな回転テーブルに、全員が座った。
 まだ席に着いたばかりの時に、隣に座った僕のお父さんが小声で言った。
「響子さんのご家族は、みんなが悠太の事を悠太って呼んでいるのを聞いて、なんだかすごく安心しているよ」お父さんはとてもやさしい顔をしてくれた。
 お姉さんが少し離れた席から言った。「悠太、コップが足りないからもらってきて!」
 僕はお姉さんにうなずいて答えてから、僕のお父さんを見た。お父さんも「もう家族なんだな」という笑顔で僕を見た。

 こう子さんのお父さんが声を出した。「悠太のお父さん、今日ははるばる札幌からありがとうございます。我々もこれから家族となりますので、遠慮ない関係を築けたらと思っております」
「私の方こそ、本日はお招きいただきありがとうございます。男手一つで育てた子なので、何分至らないところが多々あると思います。ですがやさしく一生懸命な人間には育てられたのではないかと自負しています。今後とも至らないところはしっかりと教育していただければと思います」僕のお父さんが応えた。

 その後は僕のお母さんが亡くなってからの大変だった話とか、なぜ競泳をさせたのかとか、色々な質問が響子さんの家族から僕のお父さんに投げかけられた。僕も知らなかった事だけど、僕のお母さんが学生のころ平泳ぎの選手だった。子供が大きくなったら平泳ぎの競泳選手にしたいという希望があった。覚えていないけれど、お父さんはお母さんが泳いでいた平泳ぎが格好良いと言っていたので、僕は無意識に平泳ぎが好きになったようだ。

 こう子さんとあんな素敵な夜を過ごした後、何度も何度もさらに素敵な夜を過ごしている。こう子さんに対して僕が持つ、汚くはないけれど、なんというか、エロい愛情と、こう子さんとこう子さんの家族に対して持つ、とても家庭的な愛情と、多分同じところから生まれた2つの気持ちは、交じり合うのを嫌うけれど、確実に両方とも大きく存在する。僕の中に何人かの僕がいて、その時によって強さが変わるというか、優先権が変わるというか。
 とにかく、誰かが見る僕は一人なんだけど、実は色々な僕が僕を作っているから、見る人によって、僕は違うんだろうと思う。だから、僕が誰かをこうなんだと決めつける事は全然できないし、誰かを間違えたイメージでとらえるなんて事はたくさんあると思う。
 だって、僕の中に僕はたくさんいるんだし、誰かの中に誰かはたくさんいるから、その中の一人だけをわかったところで、全然わかった事にはならない訳だから。

 結婚式と新婚旅行については、僕のお父さんから提案があった。強制するつもりはないけれど、お父さんとお母さんが結婚式をした沖縄の読谷にあるホテルの教会は、とても良かったし、ホテルもとても良かったから、お勧めだよという事だった。
 お父さんが札幌に戻った夜、僕とこう子さんは僕の家の片づけや模様替えの話し合いをした後で、やっぱり最高のエッチをした。
「こう子さん。結婚式と新婚旅行は、ハワイとか行きたいところはあるの?」
「ハワイかぁ、良いけどねぇ。でも悠太、これからも二人の生活は続いていくんだよ。現実離れしたような恋人期間がゼロで家族になっちゃおうとしているからちょっと残念ではあるけれど、お金の事も考えていかなきゃダメだと思うの。いつまでも親に甘えた考えを持っていられるほどには、どっちの親も大富豪って訳じゃないしね。だから私は結婚式自体、しなくていいんじゃないかな?って思ってはいるんだけど、でも悠太のお父さんが私たちに読谷の教会の話をしたって事はさ、やっぱりそこで式を挙げて欲しいんじゃないかな?って思うの。どう思う?」
「うん、お父さんがお勧めだよとか言うのって、あんまりないんだよね。だからお父さんとしては、そうして欲しいと思っていると僕も思う」
「冷静に考えてみるとね、今の私たちくらいの時に結婚して、二人の間に子供ができて……私は……悠太が亡くなっちゃったら……」こう子さんは泣き出してしまった。
「こう子さん。僕は死なないよ。こう子さんが死ねって指示を出すまで僕は死なない」
「うん、ごめんね。でもだからね、お父さんの苦しさや寂しさや、それを全部隠して悠太を愛し続けた事にね、私は心からの感謝と敬意を表したいの。悠太は自分のお父さんだから意識しないだろうけれど、悠太のお父さんはかなりのイケメンなんだよね。絶対に今まで悠太のお母さんになりたいって人はいたと思うの。でも、自分よりも悠太を優先した結果として、ずっと一人でいるんじゃないかなって思うと、それは悠太に対するすっごい愛情の強さだと思うんだ。だから私の希望は、読谷の教会で式を挙げる事。お金については、私にも少しは貯金があるし、お父さんにも甘えちゃおうかなって思っちゃう」
「さっきは甘えるのは良くないって言ったのに」
「それはそれ。これはこれよ」
 次の日から僕たちは、読谷の教会で式を挙げる為の情報収集を始めた。
 
 こう子さんは基本的に実家住まいを続けているが、ほぼ毎日僕と夕飯を食べて、週のうち4日間は僕のセミダブルのベッドで眠っている。僕がダブルベッドに買い替えようというと、こう子さんが今のままの方が、くっついていられるから買い替える必要性を感じないと僕の提案を突き返してきた。もうホント……うれしくて泣きそうになった。
 ほぼそのセミダブルベッドで交わされるエッチについては、僕はこう子さんしか経験ないけれど、僕とこう子さんは最高に身体の相性が良いと思っている。こう子さんもそう思っていて欲しいとも願っている。怖くて聞けていないけど。

 ある夜、僕が作ったペペロンチーノとサラダを夕飯で食べながらこう子さんが言った。
「ねえ悠太、一つちょっとだけ気になっている事があるんだけれど、結婚の前に腹落ちさせたいから」
「うん。怖いな」
「私も怖いよ。悠太がやっていたというマッサージについてなんだけど、元々は私専属になってくれるつもりだったっていう」
「うん、こう子さんがお気に入りのマッサージ師に夢中だって言うから、僕が横入りしようとしてね」
「だから夢中なんて言ってないって。で、結局私はまだマッサージを受けていないんだけれど、まあやってもらうのはおいおいでいいんだけれど、アルバイトでやっていたマッサージってどんなだったのかな?と」
「ああ~それね~。でもこう子さんに施術するのは結構厳しいかなぁ……」
「厳しいってなによ?私には厳しいってなによ?」
「え~と、たぶんね、僕がエッチな気持ちになっちゃって、施術どころではない事に……」
「そんなエッチな気分になっちゃうマッサージを、他の女にしていたって事?!」
「他の人に施術しても、エッチな気分には少ししかならないよ」
「少しはなるようなマッサージだったんですか?あ~もうダメだ。そんな事言われたら、どんな事をしていたのか気になって仕方ない」
「じゃあでもご体験いただく前に1つご理解いただきたいのは、もしこう子さんに僕が施術をした結果、興奮しちゃって逸脱行為に及んだとしても、それはこう子さんに対してだけ起こるバグだという事を」
「わかった」
 
 僕たちは夕飯を終えてお風呂に入り、マッサージの準備をした。専用のオイルが無かったので、調理用のオリーブオイルを使う事にした。
 ベッドに大きなバスタオルを二枚敷き、こう子さんには既に運び込み始めている荷物から黒のビキニをつけてもらい、仰向けに寝てもらった。
「すみませんお客様。既にもう黒いビキニ姿にグラグラきちゃっているのですが……」
「実際にはどんなモノを身につけるの?」
「すごく昔のカボチャのようブルマーの形をした紙製のパンティと、頭に巻く汗止めのような紙製のブラです」
「まぁ、色っぽくはないか」
「もう全然。笑えるくらい。男性はブラは付けないけどね。ではオイルから目を保護するために、タオルで目を隠させていただきますね」
 こう子さんにリクエストを聞くと任せると言うので、僕の希望で子宮周囲のリンパ節切除用の施術を始めた。本当は背中を中心にするべきなんだけど、今日はラブラブモード突入狙いでこの設定にした。
 
 手にたっぷりのオイルを塗りながら、耳の後ろ側から首の外側を通り腋の下へ、腕を広げてもらって内肘から腋の下を通り乳房の下へ、乳房の下から乳房の真ん中を通り心臓の下へ親指の腹や手のひら全体で撫でるようにリンパを流す。
 足裏から内側を通ってヒザ上へ、くるぶしから外側を通ってヒザ上へ。
 脚を少し開いてもらって、内ヒザ下から内ももを通って鼠蹊部へ、外ヒザから腸骨へ。
 鼠径部を片側ずつ、両手の親指の腹を使って、下から上へ撫でる様になぞりる。

 ここからはこう子さんとのラブラブバージョンだ。
 親指の腹で鼠径部を下から上へなぞりながら、女性器へと少しずつなぞる位置をずらしていく。
 ビキニに少しだけ指が入るくらいまでずらし、外陰唇を絶妙なテンションで下から上へなぞる。
 さらにずらしていき、指先が小陰唇に触れる。

 こう子さんの蜜壺から淫汁が流れ出す。
 それを指先で感じながら、小陰唇を下から上になぞる。
 こう子さんの身体がピクッと痙攣する。
 何度も何度も執拗に小陰唇を下から上になぞり、時々クリトリスに触れる。
 ビクビクッとこう子さんの身体は痙攣する。
 ビキニをずらして小陰唇と小陰唇の間を二本の親指の腹で、休みなく下から上へなぞる。グジュグジュグジュっとこう子さんの秘部から厭らしい音がする。当然僕の男根は、勃起して脈を打っている。
 片方の親指の腹でクリトリスを優しく丁寧に下から上へなぞり、もう片方の親指を曲げて蜜壺の入り口すぐの上側の壁を、お腹に向けて小刻みに圧を与える。
 こう子さんは無意識に自分で脚を開き、僕の指の動きと同じリズムで、身体をビクッ、ビクッ、ビクッと痙攣させる。
 クリトリスへの刺激はそのまま優しく続けながら、蜜壺に入れている指を親指から中指に変える。
 中指の曲がり角度を少しずつ変えながら出し入れさせて、お腹側の壁を刺激する場所や強さを変える。
 こう子さんの身体が一番反応する角度で固定してしばらく動きを続ける。
 こう子さんはバスタオルをギューッとつかむ。
 指の動きを極小にした後でまた強く動かすが、リズムを不規則にする。こう子さんは腰を動かし始めるが、今日の僕はその指示に従わない。
 このリズムで動かせと、さらに腰を動かしてくるけれど、僕はそれに反抗する。
 クリトリスへの刺激は継続させながら、一度指を抜いて、中指と薬指の腹で、こう子さんの蜜壺の入り口を小陰唇の上から優しいタッチだけど高速で上下させる。
 こう子さんの秘部からビュ、ビュっと透明の液体が噴き出す。
 僕は指の動きは止めずに口を開いてこう子さんの秘部に近づけて、さらに噴出する液体を口に収める。それを飲む。――幸せだ~
 速度を上げてテンションを強めていくと、液体の量が多くなりこう子さんは仰け反るように身体をピーンと伸ばしてから、ガクンと脱力した。僕は動きを止めた。
 
 指を止めて、グチョグチョになった秘部を丁寧に舐め始め、こう子さんの淫汁を全部舐めとって飲み込ませてもらった。

「お客様、お眠りになられているところ申し訳ございませんが、そろそろ時間です」
 こう子さんは動かない。
「お客様……」

 ――バシッ
 こう子さんは目の上にかぶせたタオルを僕に投げつけてきた。
 「絶対やってたでしょ!」こう子さんは顔を赤くしてブワ~っと泣き出した。思ったのと違う展開になってしまったのですごく驚いた。
 まずい。つい興奮してやり過ぎてしまった。こう子さんは僕がこれに近いことを、アルバイトでもやっていたと思ってる。まずい。
 僕はその後必死に謝った。鼠径部は触れるけれど、ものの5回くらいだし(本当は片側20回)、大陰唇に触れるまで内側には撫でる位置をずらさない。今日はやっぱりつい我慢できなくなってしまったと、必死に言い訳をした。

「……嘘。やっているからこんなにうまくできるんでしょ?!」
「本当にやってない。警察呼ばれちゃうよ。半分くらい男性だし(本当は2割)こんな風には絶対やってない!」
「……じゃあ、おちんちん見せて……」
「え?」
「早く!!!」怒鳴るように言った。
 僕は慌てて出した。
「そうやっていつも勃起させて、そうやって汁出してたんでしょ?!」僕の先端からは、透明な液体がドクドクと流れ出てきている。
「ならないよ。集中して真剣にやってるんだもん!勃起なんかしないよ!(本当は10回に1回か2回していた)」
「そんなの言い訳じゃん!証明してよ!バカッ!!」
「ごめんね……痛かった?」
「2回きたよ!バカ!!」

 この後僕はたくさんの言い訳とたくさんの謝罪を繰り返した後に、夜のコンビニへ走り、こう子さんが好きなふわふわシュークリームを買ってきた。ラブラブな夜になるはずが、思っていたのと違う夜になった。

 1週間くらいの間は、本当は指でイかせまくってたんだろ!とか本番までしていたんだろ!とか私とするまで童貞だったなんて怪しいもんだ!とか散々言われていたが、徐々に怒りも収まってきた。
 その間もエッチはさせてくれていたけれど、そんな風に腰動かしてたの?とか、キスはしていないでしょうね?とかクンニくらいはしてたんでしょ?とか言葉攻めが流行した時代だった。
 流行と怒りが去った後に話し合いで、僕はこう子さんとのエッチを際限なくし続けてしまい、明け方に仮眠をとって仕事に行くような事も多々あるので、お休みの日以外は僕が1回イったら、2回目は無しとなった。僕がそれに不満を述べると、週休2日のお休みのうち1日は、朝から晩までエッチをしても良い事になった。その日の僕たちは、朝10時くらいから、夜7時くらいまでずっとしている。
 挿入したままでおにぎりやサンドイッチを食べたり、挿入したままで昼寝をしたり、挿入したままでブルーレイの映画を見る事もある。トイレに行くとき以外はずっと挿入している。
 絶対に妊娠を避けたいと思っていないので、原則的にはコンドームは使わずに、こう子さん膣内以外で射精をしている。安全日の時にはこう子さんの中で射精させてもらっている。こう子さんの安全日と、一日中エッチをして良い日が重なる事を、僕はいつも祈っている。
 もし子供ができた時に、できちゃった婚のようになると、子供が自分のせいでって思うかもしれないから、先に入籍をしたいと僕が言った。
 こう子さんは、そんな風に思う子供がいるかなぁ?と懐疑的ではあったけれど、最終的には入籍を先にする事に同意してくれた。

 僕たちはもう一度ちゃんとこう子さんの実家で、結婚の承諾をもらい、二人で区役所に行って入籍をした。婚姻届けの証人には、僕の方は真理雄になってもらった。こう子さんはこう子さんのお父さんになってもらった。僕たちは晴れて夫婦になった。長い時間、ずっと追いかけ続けた夢がかなった瞬間だった。すっごい頑張ろうと思った。
 健康保険の事とかもあったので、病院の方には結婚した事を書類で提出した。僕が想定したよりも多くの人に驚かれた。しかも相手は、ここで働いていたこう子さんだったのでさらに驚かれた。どうやら僕がゲイであるという話は、かなり真実味を帯びて定着していたらしく、僕がそれまで距離感を感じていた男性の職員が、今までよりも声をかけてくれるようになった。
 こう子さんに言ったら「そいつは同性愛者差別野郎だね」と言ったのでなるほど、仲良くしたくないと思った。人の生まれや生き方で差別する人は嫌いだ。

 沖縄読谷の教会は、僕たちの貯金でも十分に対応できる金額だったので予約をした。友人知人を呼ぼうとすると、旅費交通費を含めてかなり大掛かりになるし、そもそも今回の計画は僕のお父さんに対する感謝や敬意を表したいという、こう子さんの気持ちから始まったものだ。なので双方の家族、と言ってもこう子さんの方は、お父さんとお母さん。お兄さんと奥さん。子供が2人。お姉さんと旦那さん、子供が3人。最低限でも合計11人になる。僕はお父さんだけだけど。
 こう子さんが真理雄君と冴子さんだけでも呼んだらどうか?と言ってくれた。確かに僕にとって真理雄は特別な友達だけど、篤や健治が黙っていないので、逆に面倒な事になる。そもそも真理雄は忙しすぎて、沖縄に来るのは難しいと思うと話してお父さんだけになった。
 それでも僕ら合わせて14人を沖縄に招待するとなると、全部で200万円を超えてくる。出せない訳ではないけれど、今後の生活を考えると厳しいとなった。こう子さんはその場で実家に電話して、こう子さんの家族の旅費はお父さんが出す事になった。電話を切る時にベロを出していた。
 僕にとってうれしい忙しさだったけれど、本当にドタバタとした毎日が過ぎていき、沖縄に行く日が来た。家族は2泊3日、僕たちは5泊6日で行くことになった。僕たち二人の旅費は、僕のお父さんが出してくれる事になった。僕は初め断っていたのだけれど、こう子さんがこれは受け入れるべきだというので、ありがたく受け入れた。
 
「ねえ悠太。私たち二人も気を付けなければダメだと思うんだけどね、どちらかがどちらかの為に何かをやりすぎるのはね、二人の間のバランスが壊れていく事になると思うの。私が今回、悠太のお父さんに甘えようって言ったのはね、良い悪いの話じゃなくって、私の親がお金を出すのに、悠太の親が出さないとなると、悠太のお父さんの中に、ずっと何かの引っ掛かりが残ると思ったからなの。悠太は私の事をずっとすごく好きでいてくれて、私の為に色々してくれるのは嬉しいけれど、そのうち私はそれを当たり前と感じてしまうかもしれない。その時に悠太はこれだけやってやてるのに!って感じてしまうかもしれない。だから出来るだけ私たちはどちらかがやり過ぎる事なく、お互いさまでやっていけたらいいなって思う」
「僕は特に気をつけなきゃいけないね。僕はどうしてもこんなに好きなのに!って思っちゃうから。もし僕が一方的な事を言い出したら、ちゃんと指導してください」
「わかった。そんな時は鬼コーチに帰ってきてもらうね」
 こう子さんはこういう精神論のような話しが終わると、いつもキスしてくれる。僕はついつい、もっと長く、もっと激しくって思ってしまう。日常生活とラブラブ生活は、同時進行が難しいと思う。キスばかりしていたら、生活はままならなくなるけれど、それをわかっていても、僕はもっとこう子さんとキスをしていたい。
 こう子さんがキスを早く切り上げると、僕はつい「気持ちがなくなったの?」とか「もう好きじゃないの?」とか確かめるような事を言ってしまう。こう子さんはその都度僕の頭を撫でて言ってくれる。「悠太の事が大好きだよ。悠太が待ってくれた時間の分だけ、私は濃厚に悠太の事が好き。だけど悠太に清潔な生活を送ってもらいたいから、洗濯をさせてね」
 僕はそう言ってもらえると安心する。僕は自分に自信がなさすぎるのかな?いつか真理雄に聞いたみようと思う。

 こう子さんは出発3日前には準備を終わらせていたから、僕は当日もドタバタする必要はなかった。奥さんが頼もしいとその相棒は気が楽だ。キレイでエッチで可愛くてエッチで、頭が良くてエッチで頼もしい、僕の自慢のエッチな奥さんだ。
 飛行機の乗り方を僕は知らなかった。そういえばお父さんがいる札幌にもまだ一度も行った事がないし、飛行機に乗った事がないかもしれない。僕がソワソワしていると、こう子さんがさっとフォローしてくれて、スムーズに搭乗手続きを終えて飛行機に乗り込む事ができた。何万回と繰り返した事だけど、今日もまたこう子さんに惚れ直した。キスがしたくて仕方なかったけれど、さすがにこう子さんの家族の前でそれはまずいだろうと思い我慢した。
 僕のお父さんがお勧めと言っただけの事はあり、ネットの画像で見るよりも、ずっと素敵な教会だった。ホテルもスペインとか南仏のような白い壁と赤茶色の屋根瓦がとても素敵だった。到着した次の日に結婚式をするスケジュール。前の日の晩は、みんなで食事をした。皆がワイワイ食事をしている風景を見て、ずっとお父さんと2人だけだった僕は、お母さんもできてお兄さんやお姉さんもできたんだと実感していた。お父さんは2人になったし。お母さんが平泳ぎの選手じゃなかったら、お父さんがあの場所のマンションを選ばなかったら、……え~と……こう子さんが三橋さんと付き合っていなかったら……、僕はこの家族を手にできなかったんだと思うと、今につながるすべては僕にとって全部正解なんだと思った。

 次の日は、こう子さんとは別々の控室に案内されて、僕は僕でタキシードを着たり、髪形をセットしたりしてもらった。こう子さんのリクエストで、僕は長くも短くもなかった髪型を短くしていた。短い髪の毛をふわっとしたオールバックのように後ろに流して、ドライヤーでガビガビに固めた。
「新郎さまは何かスポーツをやっていたのですか?とても良い体つきですね」そう言ってもらえた。
「僕は競泳をやっていました。僕と結婚してくれるのは、僕に競泳を教えてくれたコーチです。実は僕は14歳の時から……」自慢げにずっと話してしまった。エッチなところ以外。
 僕が教会に入ると、こう子さんとこう子さんのお父さん以外の家族みんながすでに座っていた。
 僕は一礼して、神父さんがいる(牧師さんかはわからない)最前列に立った。
 すぐに厳かな音楽が鳴り始めて、入り口のドアが開いた。
 ――ああ……神様って本当にいるんだなぁ――
 僕は初めてそう思った。

 開いたドアの向こうには、シンプルで、体の線がはっきりとわかるウェディングドレスを着たこう子さんがお父さんの隣に立っていた。
 僕は初めて女神様を見た。
 いや、ずっと前から、14歳のあの夏の日から、僕はずっとこの女神さまに恋い焦がれて今日までの時間を過ごしてきた。僕もうっすら化粧をされていたので、ダメだと思って我慢しようとしたけれど、涙がポロポロ流れ落ちた。

 一歩ずつこう子さんが近づいてきてくれて、僕のそばまで来たこう子さんはお父さんの手を放して、僕の手を取ってくれた。
 心から、こんな女神を今日まで健康に育ててくれた、お父さんやお母さんに感謝の気持ちを持った。

 僕たちは今日、法律上だけではなくて、家族みんなが認めてくれる夫婦になった。

 昨日の夜もしていたけれど、今夜のエッチはやっぱり特別だった。
 部屋からライトアップされたビーチを見ながらこう子さんが言った。「これからも、末永くよろしくお願いします」
 「僕の方こそ、至らない点は修正していきますので、どうかお見捨てなきよう」こう子さんに言った。
 僕たちはそのまま長い時間のキスをした。相変わらず柔らかく温かい、とろけるようなキスだ。
 僕たちはその後、室内プールに行った。こう子さんの競泳水着とライフセーバーのユニフォーム以外の水着姿はマッサージで怒らせてしまった時くらいしか見たことがない。
 こう子さんは白地に赤と青のラインで描かれたペイズリー柄のビキニを着ていた。僕が知らないこう子さん。すっごくキレイ。
 室内プールには誰もいなかった。僕たちは軽く泳いだり、キスしたり楽しく過ごした。
 途中キスが激しくなり過ぎて、これ以上はまずいと思ったホテルのスタッフが、あえてガシャガシャと音を立てて巡回に来ていた。
 僕らがキスをするたびに、巡回の回数が増えていったので、僕らは部屋に戻った。

 薄暗い部屋のこう子さんの裸は、目のとても細かい真っ白なシルクのような美しさだ。ひんやりしてそうだけれど、触れるととても温かい。
 ベッドわきで二人とも立ったままで抱き合って、長く柔らかい、濃厚なキスをした。僕はそのまま唇から首、首から肩、肩から胸に僕の柔らかくした唇でキスする場所を降ろしていった。
「うぅぅ……」こう子さんは言葉にならないような小さい声を出している。
 僕はそのまま唇をお腹、おへそ、薄くフワフワしたこう子さんの性毛に唇を降ろした。
 僕は万歳するように腕を持ち上げて、こう子さんの白い乳房についている、薄いピンク色の乳首に指で触れた。
「はうぅ……」腰を少しくねらせる。
 指でこう子さんの乳首に軽く触れたり、軽くつまんだり、手が届く範囲ギリギリまで唇を降ろしていった。太ももの下の方まで唇を下げた時に、こう子さんは少し脚を開いた。
 これはこう子さんが秘部を刺激しろという指示だと判断して、今度は下から上にゆっくりと唇を移動させた。
 内ももからこう子さんの秘部に到達する直前で止めた。
「はぇん」期待が外れたこう子さんは、崩れるような声を出した。こう子さんは腰を前に突き出して僕の唇を、自分の秘部へと導いた。
 両手を乳首から離して、ガバッとお尻を強く揉むのと同時に、こう子さんの蜜壺に舌をめり込ませた。
「ああああああ」こう子さんがこれ以上ない甘美な声を上げた。
 蜜壺にめり込ませた自分の舌を、お尻を強く揉み上げるリズムに合わせて弾くように上下させた。
「あうっあうっ」こう子さんは僕が舌を弾くリズムに合わせて腰を振った。
 僕はこう子さんをベッドに押し倒し、少し痛いくらいに、それでも細心の注意を払って乳房をもんだ。
 体重をかけないように気を付けながら、僕はこう子さんの乳房の上にまたがる様にして、勃起した男根をこう子さんの顔のすぐ前に突き出した。
 僕のすねで、こう子さんの両腕の動きを封じて、僕の男根には手が伸ばせないようにした。
 こう子さんが僕の男根を口に含もうとするが、僕が力を入れるたび肉棒は上下に逃げて、なかなかこう子さんは口に含めない。
 舌を長く出して、こう子さんは僕の男根を捕まえようとするが、肉棒は逃げる。
 僕は身体を少し前に出して、こう子さんの口元に睾丸を押し付けた。
 こう子さんは舌を出して、僕の睾丸を舐めまわす。
 僕は手を後ろに回して、こう子さんの蜜壺に指をねじ込んだ。
「ゃあはあんんんん」こう子さんは腰をグイっと前に突き出して、僕にもっと指を入れるように指示を出した。
 僕は指1本を2本に変えて、こう子さんの淫壁を傷つけないように注意しながら、蜜壺の中を荒々しくかき回した。
「ヒャッ、ヒャッ……」こう子さんは強く攻められて被害者の様相を呈しながらも、腰をグイグイ突き出してもっともっとと僕に要求してくる。
 僕はシックスナインの体勢になり、覆いかぶさるように肉棒をこう子さんの可愛い口にねじ込んで、舌を目いっぱい硬く伸ばしこう子さんの蜜壺にねじ込んだ。
 僕もこう子さんもただ卑猥に、ただ自分の快楽のために、自分勝手に腰を振って感触を楽しんだ。
 こう子さんの腰の動きは止まらずに、もっともっとと再度要求してくる。
 僕はこう子さんを横向きして、こう子さんの片足を抱きかかえるようにして挿入した。
 できるだけ激しく、僕の自分勝手な欲望をぶつけるように激しく、こう子さんを攻め立てて。

 嫌がるかどうか微妙だったけど、こう子さんをうつぶせに寝かせて、正常位のこう子さんを裏返したバックを彷彿とさせる体位で挿入し、こう子さんのお尻に僕の恥骨を激しく、何度も打ち付けた。
「いやああああ、いやああ」これは本当に嫌な嫌ではないと判断して、さらに強く、早く打ち付けた。
「ダメダメダメダメダメ……いやあああああ」こう子さんはバタッと力を抜いた。僕も全部の動きを止めた。

 そのままでしばらく待ち、こう子さんの身体に少し力が入ったのを感じ取り、そのままの体位で、僕はゆっくりと男根を出し入れさせた。
 こう子さんはお尻を少し上げて、僕が抜こうとする男根についてくる。
 僕はあえてこう子さんのリズムに反するリズムで抜き差しを繰り返す。
 こう子さんが僕のリズムを読み取ろうとするけれど、僕はしばらくそれを裏切り続けた。
 さっきよりこう子さんの身体に力が入りだしたので、流れを変えたがっていると判断して、様子をうかがった。
 こう子さんは身体を反転させたがっているので、僕は一度男根を抜いて、こう子さんの身体を仰向けに反転させた。
 僕は正常位になったこう子さんが痛くないように、注意深く、でもまだ荒々しさを残す形でこう子さんの蜜壺に僕の男根を挿入した。
 こう子さんは体を起こす力を入れたので、僕は背中に手を回して起き上がるのを手伝った。僕は脚を入れ替えて騎乗位の形になった。
 こう子さんは上半身は起こしたままで、両手で髪の毛をかきあげながら腰を前後に振った。
 こう子さんの腋の下を見て、僕は少し我を忘れて体を起こして、こう子さんの腋の下を舐めまわした。
「はあぁん、うわっはん」こう子さんは腰を強く前後に動かす。僕はこう子さんの腋の下を舐めまわす。
 こう子さんが両手を僕の胸に持ってきたので、また状況変化を望んでいると思い、僕が体を後ろに倒して仰向けになった。
 こう子さんは脚を動かして、しゃがむスタイルになり、僕の胸に両手を置いて大きく身体を上下に動かして、長いピストン運動を始めた。
 こう子さんの淫唇をかき分けて、怒張した肉棒は蜜壺へと侵入していく。それを何度も繰り返す。
 こう子さんは上半身を僕にかぶせてキスをしてきた。
 いつもと違う、柔らかくない、硬く強く激しいキス。
 お互いの顔を舐めあうように唾液だらけになった。僕はこう子さんの期待を一度棚に上げて、僕の期待をお願いした。
 「こう子さん、僕の口にこう子さんの唾液を流し込んで……」
 こう子さんは一瞬だけ戸惑ったけれど、すぐに二人の口に10センチくらいの距離を取った。
「悠太……口を開けなさい」僕の心臓をつぶされるような気がした。僕は脳みそ全部が溶け出す感じになって、響子コーチの指示に従って、口を大きく開けた。
「どうしてほしいの?……」
「ください、響子コーチの、唾液を僕に飲ませてください」
 こう子さんは、僕の口の中に唾液を流し込んだ。糸を引きながら、こう子さんの透明な唾液が、僕の口の中に流れ込んできた。
 僕は幸せで、嬉しくてすぐに飲み込んだ。
「誰が飲んでいいって言ったの?悠太は私の指示を待てないの?」
「ごめんなさい。ごめんなさい。飲ませてください。もっと飲ませて……」
 こう子さんは意地悪でいたずらな笑顔を見せた。僕の期待は裏切られ、一度立ち上がったこう子さんは、僕の顔の上にしゃがみこんだ。
「悠太はまずこっちから。私を気持ちよくしなさい」
 僕はこう子さんの秘部を必死で舐めた。舌の硬さや形、唇の使い方、考えられるすべての方法で、こう子さんの蜜壺やクリトリスを舐めた。
「少しは上手になってきたわね。でもまだまだだから。ちゃんと私の言うとおりにしなさい」
 こう子さんはもう一度立ち上がり、ゆっくりと僕の勃起した男根の上にまたがった。
 ――ズブリュッ
 すごく隠微な音がして、僕の男根はとても温かく、本当に気持ちが良い、こう子さんの蜜壺に飲み込まれた。
 こう子さんは僕の顔をずっと見ている。僕の顔を見たままで、腰をゆっくり振る。
「こう子さん、こう子さんの中に、ぼくにょ……」すごく大事なシーンで僕は噛んでしまった。
 2人はふっと冷静な顔に戻り、見つめあい、笑いだした。
 こう子さんは涙を出して笑っている。ちょっと前だったら不安になったけど、今は嫌われる不安には襲われない。こう子さんは指先で。自分の涙をぬぐった。
 身体を倒して、二人の顔はすぐそばにある。こう子さんが、じっと僕を見つめてくれている。こう子さんは片手で僕の短くなった髪に触れる、頭をなでてくれる。
「私の大事な……大好きな悠太……大好きだよ……」いつもの柔らかく優しい、温かいキスをくれた。
 僕らはそのままキスを続け、こう子さんは腰を動かし、僕はこう子さんをぎゅっと抱きしめたままで、こう子さんの中にたくさん射精した。

 僕はこれからも、こんなに素敵な時間が送れるんだ。絶対に無くさないようにしたい。僕の全部でこの時間を守りたい。誰にも渡したくない。
 その後も何度もキスをして眠りについた。
 
 家族が帰った日、僕たちは水族館に行く事になった。こう子さんのお父さんから、もう一日延泊するから一緒にゴルフに行こうと誘われたけれど、その時のお母さんとお姉さんからの攻撃は激しかった。
 僕は免許を持っていなかったけれど、こう子さんは18歳の時に免許を取っている。だからレンタカーを借りた。
「じゃあ、私、ペーパードライバーだから、しっかりシートベルトを着けてね」こう子さんが言った。
「僕も免許取った方がいいかな?これから何があるかわからないし」僕は助手席からこう子さんを見た。こう子さんの運転する横顔は、まじめでキリッとした顔をして、とてもキレイでキュートだ。
 僕は見とれながら言った。「こう子さんの横顔も、本当にキレイで可愛くて大好き」
 こう子さんは笑いながら言った。「今日は笑わせないで。超真剣なんだから」
 僕はカーナビに目的地を入力するくらいしかできないので、水族館の場所を入力した。横でああだこうだと言われると、運転しにくいと思って、運転には口を出さないようにした。
 運動神経の良いこう子さんの運転は、ペーパードライバーとは思えないほどスムーズで安心して助手席に座っていられるものだった。
 水族館までもう少しのところまで来た時に、道沿いにある紅芋を使ったお菓子屋さんの前を通り過ぎた。
「あ、あそこの紅芋のお菓子、すごくおいしいから帰りに買おうね」こう子さんは笑顔で言った。
「うん。こう子さんが好きなものは、僕も全部好きだから買おう」僕はこう子さんの横顔を見て言った。
「お土産か何かでもらったの?」僕はこう子さんの横顔を見続けて話を続けた。
「ん?いや、前に買ったことがある」
「僕は沖縄初めてというか、飛行機も初めてだったし、考えてみると修学旅行の京都奈良とか以外、関東地方から出ていないかもしれない」
「これから悠太と私は、長い時間をかけて色んなところに行こうね」
「すっごい楽しみ。こう子さんとたくさん色んな所に行ったり、色んなもの食べたりこう子さんと一緒。こう子さんは沖縄には何回目くらいなの?」
「多分……4回目かな?」
「友達と?」
「え?うん、まあ、そう」ちょっとこう子さんの返答がつまり気味だった。あ!?僕はもしかしたら地雷を踏んだかも。僕は違う話を探した。
「水族館は、ジンベイザメがいるらしいけれど、ちょっとワクワクしちゃう」僕は言った。
「うん。すっごい大きいよね。あれでプランクトンとかを食べて生きているのが不思議だよ」
「そんなに大きいの?」
「うん、初めて見た時にびっくりした」僕はまた地雷を踏んでるっぽい。

 水族館の駐車場について車を止めた。僕は大きな駐車場から周りを見渡して入口を探した。
「悠太、あっちにチケットが売っているから行こう!」こう子さんが僕の手をつないだ。こう子さんの温かい手は、いつも僕を幸せにしてくれる。幸せに……幸せに…………
 ……
 僕たちはチケットを買って、水族館の中に入った。大きい屋外階段があり、右にも左にも建物がある。僕は入り口でもらったパンフレットを見て言った。
「こう子さん、まず何から見ようか。右に行くと……」こう子さんはつないだ僕の手を引っ張った。
「右側の方がメインな感じだから、まずは右から見てみよう。ジンベイもあっちにいるし」
 こう子さんが僕の手を引いたけれど、僕は散歩に行くのを嫌がる犬のようにその場にとどまろうとした。
「こう子さん。誰と来たの?」
「え?ここに?」
「それもそうだし、沖縄に」
「え?なんで?」
「三橋さんと?」
「いや、三橋とは来ていないよ」
「じゃあ誰と来たの?どこに泊まったの?」
「ちょっと悠太。顔が怖いよ。どうしたの?私何か嫌なことした?」
「そうじゃなくて、誰と来たのか聞いてるの」
「え~、えぇと、モモさん、百瀬コーチと」
「え?!百瀬コーチと?なんで?」
「今ここで話さなければダメ?」
「聞きたい」
「そうか、私はちょっと嫌だなぁ」
「でも僕は聞きたい」
「私は悠太との新婚旅行の時に、あんまり思い出したくもないし、悠太に嫌な思い、させたくないんでけどなぁ」
「このままにされた方が嫌だ」
「……よし、わかったよ。モモさんとは三橋と別れた後で付き合ってた。結構長く付き合ってたよ。だからモモさんと来た。それとライフセーバーだった時に一緒に働いていた押尾君って副隊長だった子と来て。あとはトライアスロンチームで一緒だった、前に悠太が話に出したマッサージ師の山上さんって人とも来た。あとは家族と来ている。小さいころにね。この4回だよ」
「どこに泊まったの?読谷にも泊まったの?」
「いや、あのホテルには来てないよ。那覇の方とか北谷の方とか。全部バラバラだよ」
「僕もそのホテルに泊まりたい。こう子さんと泊まりたい」
「ちょっと待って、悠太。おかしいよ。今は私たち二人の新婚旅行だよ?なんで私の過去の事をほじくりだそうとしているの?」
「僕と昨日したみたいな、あんなエッチしたの?あんなキスしたの?」
「悠太、悠太君!待って。やめて」
「なんで二人の結婚式を、そんなほかの男の人との思い出がいっぱいある沖縄でやろうって思ったの?」
「だから、それは悠太のお父さんに……」
「僕のお父さんなんかどうでもいい。そんなのどうだっていい」
「悠太!いい加減にして。自己中心的に考えすぎだよ!私のスマホ見る?いま話しに出てきた人たちの連絡先はもう入っていない。向こうから来ても出るつもりはない。今は悠太だけ。私はどうしたら良いの?」
 
 僕はその後こう子さんに諭されて、謝って、二人で水族館を見て回った。だけどこう子さんにつないでもらって手の温かさは、他の人ともこうやって見ていたのかな?とか、他の人にもその笑顔を見せてたんだろうな?とか、この温かい手でおちんちんを握ったのかな?とかそんなグチャグチャした頭の中になってしまって、ジンベイザメも全く思えていなかった。
 帰り道の会話も少なくなってしまい、こう子さんはやめようといったけれど、僕の希望として紅芋のお菓子は買ってホテルに戻った。こう子さんは一緒にラウンジで紅茶を飲もうと誘ってくれたけれど、僕は今はいらないと断った。
 こう子さんはバルコニーに出てしばらく海を見ていた。僕はベッドに寝ころんでいた。
「悠太。ちょっと話しがしたい」こう子さんがバルコニーから部屋に戻った。
「なに?」僕はそのままで答えた。
「ちゃんと話したいから、こっちに来て」こう子さんはソファーに座って言った。僕はこう子さんと一人分の距離を開けてソファーに座った。
「悠太。私たち二人の時間を他の人に邪魔させるのはやめて」こう子さんは少し強い口調で言った。
「僕が邪魔させたんじゃないよ。こう子さんがそうさせたんだよ」
「それは違うわ悠太。私の過去を今に持ってきたのは悠太よ?」
「違うよ。こう子さんだよ」
「じゃあ、私がこれから他の人と行って知っているお店や、知っている場所も、過去に関わる事は一切悠太に言わなければ良いの?」
「そんなこと言ってない」
「じゃあどんな事を言っているの?」
 僕は言葉がなかった。僕が間違えているのはわかっている。でも自分をコントロールできない。こう子さんが他の男の人と……
「今悠太が考えている事を、ちゃんと共有させて」こう子さんはキッパリと言い切った。
「昨日の、その前も、その前の前も……こう子さんと僕がした、すごく幸せなエッチを……こう子さんが他の男の人としてたって考えちゃうと……もう苦しくって苦しくって……」
「だから私は悠太が高校時代から、告白されるたびに、それなりの経験をするように言っていたよ?」
「僕の経験とは関係ないよ」
「あるんだってば。私前にも言ったよ?私と悠太がしているセックスは、他の人としてきたセックスとは違う、本当に特別で経験が無いセックスだって。身体だけじゃなくって、心がくすぐったくなる特別なものだって」
「僕が知っているこう子さんのエッチは、とても情熱的で、すごくエッチで……他のこう子さんのエッチは見たことが無いからわからないよ」
「じゃあ悠太とのセックスも、もっとドライなものに変える?私が今までしてきたようなセックスに変えてあげようか?」
「そんなの、いくらだって嘘つけるじゃん。本当は他の人ともあんなに情熱的にしてきたけれど、演技でいくらでもドライにできるじゃん」
「じゃあ、悠太の前で、三橋やモモさんとセックスすればいい?私が今までしていたようなセックスをして、いつもと違うか?いつもこんな感じだったか?悠太が三橋やモモさんに聞けばいいよ。私は悠太にわかってもらえるならば、いくらでも悠太の前で他の男に抱かれるよ」
「やめてよ~。やめてください~。そんなの絶対やめてよぉ~」僕は泣き出してしまった。
 こう子さんは僕とこう子さんの間にあった、ソファーの一人分の距離を、お尻をずらして座り直して埋めてくれた、こう子さんは僕を抱きしめて、頭をなでてくれている。
「ねぇ悠太。私はあなたが好きよ。あなた以外に興味はないわ。でもあなたが望むなら、私は何でもする。あなたがわかってくれるまで、あなたが納得してくれるまで、何でもする。私の過去を細かく聞きたいなら……そうね、話しにくいけれど全部話すわ。どんなセックスをどんな場所でしてきたのか?セックス以外にも覚えている範囲で、食事した場所とか、どんな話をしたとか。正直あまり覚えていないけれど、悠太が望むなら全部思い出せるように頑張る。でもね、もう終わった過去の事を私が思い出すって事は、それは過去じゃなくって今になってしまう。悠太にその覚悟があるならば、私は悠太の希望に全部応える。過去にセックスをした人と今もう一度すれば、それは間違いなく今になるわ?それと同じよ?私はあなたが好きよ。だからあなたの望みには全部応えたい。だからあなたの希望を正直に伝えてほしいの」

 ずっと夢見てきた、こう子さんとの新婚旅行で、僕は絶対にやってはいけないバカをやった。もう……どうしようもないバカだ……
 僕は今回の事を謝って、なんでも正直に言う事を伝えた。
 こう子さんとの新婚旅行は、こう子さんのおかげでこの後は楽しく過ごせた。こう子さんはきっと嫌な気持ちを抱えたままで……
 
 今回は謝って許してもらえたけれど、多分こんな事を続けていたら、僕はレッドカードで退場になってしまう。僕は何がしたいのだろう?自分が全然わからない。


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