ReTake2222回目の世界の安田雄太という世界線

第7章 大学時代 初めての夜とお尻とDNA

 一人で暮らす事にも慣れてきて。というかお弁当が増えたり、家がやや汚い以外は、特に何も変わらない毎日が続いている。響子コーチの為ではなく、自分で考えた将来として、人の身体に直接施術する道はアリかもしれないと考え進めていた。お父さんの作った機械を僕が使ってとか言っちゃったから、お父さんにはちょっと言いにくいなぁ……とも思ったけど、幸いお父さんはしばらく札幌だし、もう少し考えてみようと思っていた。
 それと同時に、ロードバイクの事も響子コーチとは別の話として、普段の移動の足として必要だと思い、近いうちに手に入れたいと考えていた。事前に知識を習得したくて、ネットで調べた自転車整備スクールにも通い始めた。本体を持っていれば動画コースで良かったけれど、まだ持っていないから本体をいじりたくって、自分のスケジュールに合わせて行ける、夜間通学コースを選んだ。
 効率の良いパチンコ店のアルバイトも、初めは週1回とかだったけれど、週3回、4回と声がかかる事が増えてきている。夜閉店後の仕事だから、響子コーチが急にご飯食べに行こうと言っても対応できる。寝不足にはなるけれど、入れ替え台数が多い時には一晩で2万円超える事もあるし、紹介してくれた謎バイトを色々知っている今沢君には感謝だ。
 週1回だと月5万円前後だけれど、今のペースだと月20万円に届きそうな勢いだ。他の事にも使ってしまっているから、全額を貯金できていないけれど、すでに30万円貯金できた。週3回のペースでいけば、来月には買えると皮算用をして寝不足を押してバイトにも行っていた。
 
 響子コーチと明日の夜はご飯を食べに行く約束をしていた。その後でバイトがあるけど問題はない。今日は少し身体が重いと感じていた。明日の授業の準備は特段必要ないかな?少し熱っぽいのかな?風邪でもひいたかな?そんな事をぼんやり考えていた。
 意識がフッと飛んだりして、寝落ちしそうになった。目がチカチカしている。耳もボワッとして、音がしている訳じゃないけれど、耳が聞こえない感じがする。どんどん身体が鉛のように重たくなる。シャワー浴びなきゃ……なかなか一歩が出ない。

 真っ暗の中を、遠くに見える小さな光を目指して歩こうとしているが、どうにも体が重くて前に進めない。それでも力を込めて一歩一歩光に向かっていると、不意に感覚が現実感を帯びた。
 僕は目を覚ました。それにしても身体が思った通りに動かないなぁ。そんな事を感じながら、力を入れて目を開けて周りを見渡す。自分の部屋のベッドにいる事はわかった。頑張って体を動かして時計を探した。腕についていた。AM7時だ。フルのトライアスロンをやったら、次の日はこんな感じなのかな?とにかく普通ではない。身体が動かない。
 のどの渇きを感じていたので、頑張って体を起こすと、僕の部屋のテーブルにペットボトル数本の飲み物があった。他にもちょっと日持ちする食べ物があった。パックに入った、ジェル状のプロテインもある。
 神様が降りてきてくれたのか、お父さんが帰ってきたのかと思った。重たい体を引きずるようにリビングに出たけれど、キッチンやそこらじゅうがキレイになっている。掃除されて食器が洗い終わり拭かれてシンク脇に重ねられている。お父さんが札幌に行ってから、正直家の中は汚くしていた。夜バイトも重なって、食べ終わったお弁当の容器だの、飲みっぱなしのペットボトルだのが散乱している状態だったはず。やっぱりお父さんが帰ってきたのかと思ったけれど、食器とかが出しっぱなしなのが変だなぁ。脳が動き出すと、状況が分からないという事実が解ってくる。いったい何がどうしたんだろう……僕は独り言をつぶやいた。トイレに行った後、自分のベッドに戻り横になったところでSNSの着信音が鳴った。

「大丈夫?サエちゃんに何か持って行ってもらおうか?」真理雄からSNSが届いた。お前が来てくれるんじゃないんかいと小声で突っ込みながら、現状把握に真理雄の力を借りようと思い返信した。
「どうなった?」意味深で、どうにでも解釈できる言葉を投げてみた。
「響子コーチは?」え!?っと思う返し。
「もういない」事実に「もう」を追加してさらにカマをかける。
「後でお礼伝えなよ。要支援時はサエちゃんへ」
 真理雄は本当に忙しいから、やり取りが短文を超えて単語がほとんどだけど、やり取りに付き合ってくれたということは、相当心配していると言える。
 キレイになった僕の住まいで、僕の部屋の机の上に並んでいたペットボトルを開けて飲んだ。
 テーブルに並んだものの趣味を考えれば、まあ、響子コーチなんだろうなと思った、僕は笑顔になる。響子コーチを想った時にはいつでもそうだ。1万回に1回位は、いや千回に1回位は苦しくて泣きそうになっているかも。

 まあ響子コーチなんだろうなって……いったいなんだ?
 ぶつ切りになっている記憶だが、少しずつ断片的に思い出した。あ、そうだ。昨日の夜は「自転車整備スクール」に行って、バイトの事や響子コーチと明日ご飯に行く事を考えてて、それで寝ちゃったんだよな……今日は響子コーチとご飯行くんだ。
 でもだとすると、なんで寝落ちした僕の家がきれいになっていて、響子コーチが来たとか、お礼言いなよとか……よく考えたらおかしい事だらけなのに、響子コーチの趣味っぽいとか納得しているけど、なんか……なんだ?いったい何がどうなったんだ?僕は眉間にしわを寄せて、状況の整理とまとめを試みていた。
 突然玄関が開いた。本当にお父さんが帰ってきたのか?僕は開けっ放しの自分の部屋のドア越しに、廊下の方を見ていた。
「あ?起きて大丈夫?」響子コーチが最高の笑顔で、買い物袋を2つぶら下げて入ってきた。
「すみません。えぇと、状況がわからな過ぎて実は大パニックなのですが、最高の笑顔を見せてくれてありがとうございます。そして本当は何があったんですか?」僕は聞いた。

「ははは。とうとう悠太君と一晩を共に過ごしてしまったかぁ」響子コーチは笑った。
「えっと、今夜響子コーチとご飯に行く約束で……」僕が言うと響子コーチは僕のおでこに手を乗せて、僕の熱を測った。
「だいぶ下がったね。悠太君が言っているのは昨日の話。昨日の夜、悠太君は約束のお店に来なかったんだよ。まあ、私がこんな事言うのもなんだけど、悠太君が私との約束を忘れたり、すっぽかす事は絶対ないわな~。でSNSでも電話でも連絡がつかなかったから、真理雄君に連絡をして状況を伝えて、悠太君の家を教えてもらった。チャイムを鳴らしても出てこないけど、一応ドアノブを引いたらカギはかかっていなかった。で、不法無断侵入したら悠太君が倒れてたの。私は悠太君を着替えさせたり、体を拭いたりして、掃除もして現在に至るって感じかな」僕は途中の言葉から顔が真っ赤になっていた。
「着替えさせたって。体拭いたって」また熱が出てきた。
「やだなぁ。ずっと海パン一丁の裸みたいな恰好で付き合ってきた仲じゃないの。そんな真っ赤になるような事?そして今は悠太君が起きた時に食べるものがないと困ると思ったので、食べるものを買ってきたところ」この人は僕がどれだけ好きなのか、本当にわかっていない。

 響子コーチはベッドで体を起こしていた僕を寝かせて、ベッドサイドにヒザ立ちで肘を僕のベッドに乗せ、僕の両手を響子コーチの両手で握ってくれている。 
「悠太君。今の生活は無理し過ぎだと思う。良くないんじゃないかなぁ?悠太君の体力は、まだ目指せオリンピックレベルにあると思うの。そんなアスリートが過労で倒れる生活スタイルは、やっぱり間違えているよ。修正しないと」
 響子コーチは僕の両手を握ったまま言った。久しぶりだなぁ。響子コーチの温もりを感じている。最近距離がどんどん離れている気がする。
「最近距離がどんどん離れている気がする……」僕は心が言葉で漏れてしまった。
 響子コーチは両手に力を追加して言った。「私は悠太君を大切に思っているよ、何も変わらずに。私が守ってあげたい気持ちは変わらない」
「ほらそうやって泣く~」響子コーチは笑顔で言った。僕は久しぶりに、涙が溢れてきた。
「悠太君はそういうところズルいぞ。もうこんな時にそんな顔されたら、たまんないだろうが」そう言いながら響子コーチはベッドの上に腰かけて、僕に上半身を覆いかぶせて、僕の頭をギュっと両腕で抱きしめてくれた。
「ああ、響子コーチの匂い。響子コーチの体温。響子コーチの呼吸。全部大好き……」 僕はまた心の声が漏れていた。
 さらにギュっと強く抱いてくれた。

「響子コーチ。お願いがあります。キスしてもらえませんか?」僕は言った。
「う~ん。やめておこう。今の君にそれをしたら、私はもう止まらなくなっちゃうよ」響子コーチに抱かれたままだったので、身体の振動から僕の心に届いた。
「止まらないでもらいたいです。僕と結婚して欲しいです。キスしてください。響子コーチと……エッチ……したいです」
「お?病気で弱っているとはいえ、悠太君が私にそんな事言うのは初めてだね~」
「茶化さないでください。僕は本当に本気で響子コーチが好きで、ずっとそばにいたくって……」
「うん。ありがとうね。私がそこまで思ってもらえる女だとは思わないけれど、そう言われて、そう想ってもらって、嬉しくない訳はないんだよ。ありがとうね」響子コーチは僕の頭を抱いた腕を離して、僕の顔を見下ろしながら、僕のおでこを右手で撫でてくれている。
「ねえ、悠太君。私は悠太君のその気持ちを有難いと思っているのは本当だけど、できればずっと悠太君のそばにいたいと思っているの」
「だから結婚を……」
「ちゃんと最後まで聞いて?私の経験上、そうなってしまったら、つまり男と女になってしまったら必ず別れが来るの。別れてもお友達ってのは今のところなくってさ」
「三橋さんが……」
「アレはほら、お友達ではなくって、ただの欲求の解消でしかなかったから。悠太君とはもっと深く、すっとつながっていたいと思っているの。始めなければ終わらないから。こんな気持ちじゃダメ?」
「僕は真理雄から、セックス観が古いというか、少数派過ぎて面倒だと言われました。過激極右ゲリラとも言われました。真理雄も似たようなものなのに。だから響子コーチが他の男性と、その、エッチをするのは、本当にキツイです。でも響子コーチの行動を僕がどうこうできるものでもないし。じゃあ僕がそんなに清廉潔白というか、エッチな事を考えていないかといえば、響子コーチのエッチな事はすっごい考えちゃいます」
「ははは、そこは過激右派じゃないって事で良かった。悠太君は私に何を望むの?セックスの相手?家族?甘えたい?甘えさせたい?悠太君は私の事が好き。ありがとう。で、私に何を望むの?」僕の頭を撫でながら、とても真剣な目をして響子コーチが静かに言った。
「僕の胸のポケットに入れておきたい。いつもそばにいたい。僕が聞いた事や見た事を、一緒に聞いたり見たりして欲しい」僕が言った。
「ミニチュア響子かぁ。難しいねぇ。悠太君はさ、私の事を考えながら一人エッチするの?」
「え?……え~と」
「私はけっこう勇気出して真面目に聞いているよ。正直に聞きたい」響子コーチはずっと僕の頭を撫でながら、僕の目を見て話してくれている。
「しています。でもなんか……普段は、響子コーチを汚すみたいな気がして、気が進まないです」
「そういう時はどうするの?」
「ネットの画像とか動画で……します。ごめんなさい」
「謝らないでよ。ちゃんと知りたいから聞いてるだけ。私ひとりじゃなくって、他の女性の動画で一人エッチをしている悠太君。私の事が好きなのに?」
「説明がややこしいけど、響子コーチの事大好きだから、なんか僕の欲望のはけ口にするのは、ちょっと……」
「私でする時はどんな時ですか?……」
「響子コーチとなかなか会えない時とか、響子コーチと言い争いになっちゃった時とか……初めて響子コーチで一人エッチをしたのは、恥ずかしいけど、響子コーチが四つん這いでサウナのタオルを交換する写真を健治が盗み撮りして、その写真で3回抜いたって言っていて。それを聞いて響子コーチは健治のおかずになっていて、僕のおかずになってくれないのは、響子コーチが悪いって思って、なんかそんなの響子コーチが悪いって思って、7回しました」
「ははは。7回かぁ~。若かったね~。今でもできる?」
「響子コーチならできます」
「私で一人エッチする時には、どんな事を想像してするの?」
「響子コーチの写真を見ながら、始めますけど、途中からはもう、その声を思い出して、あの夜のキスを思い出して……」
「思い出して?……」
「本当に恥ずかしいし、こんなこと自分で認めたくないですけど、響子コーチが三橋さんとどんな風にしているんだろうとか、トライアスロンのキャプテンとどんな風にしているんだろうとか、そんな事も考えちゃって……」
「悠太君はさぁ、私が大好きだから、私を汚したくないから、他の女の人の動画で一人エッチをする。でも私が他の男の人に汚されているところも想像して一人エッチをする。私は悠太君が大好きだから、悠太君との関係を終わりにしたくないから、悠太君とはエッチはしないと思っているけど、女性が一人エッチする用の、男の人の動画って私は知らないから、実物の他の男の人とエッチをする。その人と終わりになっても、ハイさよならって感じで済む人とエッチをする。悠太君は私を自分のモノにしたいから、私が他の男の人に触れたり、触れられたりするのが苦しい?」
「いや、えっと、響子コーチも好きな人が他の女の人とキスしたり、その、エッチしたりするの嫌じゃないですか?」
「じゃあそれが悠太君だとしよう。私は悠太君が他の女の人とキスするところを想像してみます。なんかカワイイって思っちゃう。悠太君が他の女の人とエッチしているところを想像してみます。良かったね、って一安心しちゃう気持ちです」
「そんなのひどいです。もっとちゃんと考えてください」
「わかった。じゃあもっとちゃんと考えるよ?悠太君が言ったんだからね?」響子コーチは僕の唇に触りながら話をつづけた。
「私の大好きな悠太君の、この唇が、他の、そうだなぁ、例えば、私が覚えている、海の家で悠太君に告白してきた女の子の唇と重なり合っているとします。悠太君は私が教えたように、唇と舌の力を完全にほどいて、極上のキスをあの子にしています。私は……よかったと思っています。例えば今度は、この唇が、そうだなぁ、お金持ちでお嬢様でとても良い人だった、向上コーチの唇に重なっているところを想像します。向上さんは、悠太君に、私が教えたキスよりも、もっと上手なキスを教えています。私は今、ちょっとだけ、嫌な、たぶん、嫉妬しています。私の悠太君に、私より経験があるかもしれない向上さんが、私の悠太君を塗り替えようとしている事に、少し嫉妬しています」響子コーチはゆっくりと静かな話し方で、僕の唇に指で触り続けている。突然指を口の中に入れて、僕の舌を指で触りながら話を続けた。
「この、私の大事な悠太君の舌が、私の知らない、私が教えたキスのやり方よりも、もっと上手なやり方で、私以外の……向上さんの口の中を愛撫しています。悠太君の舌は、向上さんの乳首に下りて、悠太君は向上さんの乳首に、軽く歯を当てたりしています。悠太君はそのまま、向上さんのアソコを、クリトリスを、ゆっくりと優しく舐めています。私はそれを見ながら思います。私もして欲しい。他の女にそんな事していないで、私にして欲しいって思います」
 響子コーチは僕の手を取り、スカートの下から響子コーチの秘部に触れさせた。
「悠太君、下着の脇から、直接触って確かめて……」響子コーチは甘ったるい声、普段は使わない、あの初詣の夜に聞いた声で言った。僕は響子コーチの蜜壺に初めて触れた。そこは温かいというより、熱いという方が適当なくらい熱くって、ヌルヌルでグチョグチョになっている。
「私は大好きな悠太君が、向上さんのアソコを優しく、強く舐めているのを想像して、私にもして欲しいと願いながら、身体をこんな風に反応させている。悠太君は、私が、例えば、三橋に痛いくらい強く胸を揉まれたり、痛いくらい強く、このグチョグチョになっている私の中に、三橋のおちんちんを入れられているところを想像しながら、悠太君も勃起させて、一人エッチをしているの」そう言うと響子コーチは、僕の勃起したおちんちんを、パジャマの上から撫でた。
「悠太君は、悠太君の知らない、私の声や、私の感じ方や、私の動きを、悠太君が想像して、嫉妬して怒っているの。でも悠太君が、私とセックスをして、私の声や、私の感じ方や、私の動きを知れば、ガッカリして嫌になったり、いつか、飽きちゃうかもね」
「そんな事ある訳がない。僕はこんなに響子コーチが好きで……」
「わかったわ……今は私の話しを聞いてってお願いしたでしょ?私は今、初めて悠太君のおちんちんに触っている。薄い布一枚、形もはっきりわかるくらい近くにあったけれど、今日初めて、温かさとか、硬さとか、かなりの大きさを感じている。正直私は今、悠太君を私の中に入れたいと思っている。すぐに入っちゃうのは、悠太君のその指が知っているわよね?」僕は無意識に、ゆっくりと指を響子コーチの蜜壺に入れて動かしていた。
「でもね、今のままでいれば、5年後にも悠太君と、ご飯を食べたり、悩みを相談したり、そんな関係のままでいられるかもしれないんだけど、もし、今、私が悠太君としたいっていう、悠太君に抱かれたいっていう気持ち、欲望に負けてしまえば、もしかしたら1年後には、スマホから連絡先を消している関係になるかもしれない。どっちも仮定でしかないけれど、私の経験上……悠太君とこのままでいられる確率が高い方を選びたいなって、思っちゃうのよね」
「だから、結婚してくださいって言っているじゃないですか」
「結婚自体はなんの保証にもならないし、関係性を重くさせるほどに、思い出したくもないものになるのよ?結婚したって35%は離婚するのが現実よ?」
「じゃあ、もう、どうしたら……響子コーチに対するこの気持ちは、どうしたら……」響子コーチは、僕のパジャマの中に手を入れて、僕の男根を直接触った。
「悠太君が考えているほど、私は聖女じゃないわ。性欲もあるし、食欲も物欲もある。損得で考える時もあるし。悠太君が私の弟だったらよかった」
 響子コーチは僕の下半身の方に頭を動かして、僕の男根を口に含んだ。響子コーチは僕を飲み込んだままで頭を動かした。僕は響子コーチの蜜壺に入れた指を乱暴なほど動かした。響子コーチの口の中はとても温かかったし、響子コーチのヌルヌルになった蜜壺は、僕の指に動きに合わせて「ヌップヌップ」とても淫靡な音を出していた。
 
 僕は響子コーチの口の中で射精した。響子コーチはそれを「コクン」と飲み込んだ。

 「悠太君は私を大人って思っているだろうけれど、私と悠太君が初めて会った時の私は今の悠太君と同じ歳だよ?あんまり変わらないでしょ?中二の悠太君と。私だって成長なんて全然できていないって感じるの。思考も行動もあんまり変わってない。いま私の目の前にいる悠太君は、恋愛感情なんて抱いたら犯罪になっちゃう14歳のあの頃のまんまの男の子であるし、それと同時にとても魅力的な男性でもあるの。あなたが私に課せる想いは、本当には複雑で難解よ?弟の様であり、若いイケメンであり、私の生徒であり、私にとって大切な人なの。ねえ、悠太君。私もあなたが好きよ。もしかすると、私が思っているより、あなたが想像しているより、私はあなたが好きなのかもしれないわ。終わらせたくないって想いを持ったのは初めただし、だからってそれをどうしたら良いのかもわからない。それと同時に、私にはキレイとは言えない欲望も生まれてしまうの。今日の出来事は、高熱にうなされた悠太君が見た夢でしかないの。悠太君にとって、それが良い夢であれば、私はうれしい。だから、夢は夢として、今まで通り。私に夢の話はしないで、現実の話をしていこう。私ね、自分のキャリアのために、留学を考えているの。その間は悠太君に会えなくなっちゃうけれど。その期間で悠太君に好きな人が出来たら、それは素敵な事だって思う事にするわ。悠太君は、もしも明日も私の事が好きでいてくれるのであれば、自分の体を労わって、無理しないようにして欲しいの。今日はこのまま寝ていてね。そのまま食べられるものを買ってきたから。私は帰るからね。大好きな悠太君」そういうと、響子コーチは柔らかなキスをくれた。5分くらいのキスをくれた。僕はそのまま眠りについた。

 初詣のキスの後には、僕は響子コーチに「その事」を話したい気持ちが強かったけど、今回の事は、なんだか自分だけが欲望を果たしたというか、響子コーチとの間の事だから、汚い訳ではないけれど、なんか言い出せなかった。響子コーチもいつもと変わらずに、色々な話をしてくれた。特に海外留学について、どんな計画で、どんな目的でと教えてくれる。響子コーチはとても嬉しそうなので、それは僕も嬉しい。

 本当に、本当にもしかするとだけど、初詣の夜に響子コーチとキスした事と、その後僕が倒れた時の、あの……あの事で、僕の響子コーチを束縛したい気持ちが、ほんの少し薄れたのかもしれない。
 恥ずかしいけれど、女の人に、大好きな女の人に射精させてもらったという経験が、もう一段大人の階段を上がらせたのかもしれないって思う。
 
 僕はロードバイクを買う為の、無理なアルバイトはやめている。響子コーチのチームのキャプテンさんの申し出は断ったが、僕が所属しているチームの40代のメンバーさんから、ジャイアントという自転車メーカーの初心者モデルのフレームをベースにした、ロードバイクを譲ってもらった。パーツは中級機以上のものと交換してあり、結構よいバイクに仕上がっている。無料で良いと言われたけれど、それはちょっと嫌だったので、5万円お礼を渡した。それでも格安だ。中古自転車でも整備スクールで勉強してるから、自分で整備できるし。
 響子コーチが海外へ行く前に、一度でいいからツーリングに行きたいとお願いをした。
 忙しい中で時間を作ってくれた。

 僕らは海沿いを走り、伊豆の一碧湖まで行き、1泊して戻る計画を立てた。正直、自転車で一緒に走る以外の期待もしてしまうけれど、僕の欲望をかぶせるべきではないという事は理解している。つもりだ。
 できるだけキレイな心で、響子コーチとのツーリングを楽しもうと思っていた。
 
 ツーリングの日が天気の良い日で本当によかった。僕も響子コーチも晴れ男と晴れ女なので、さほど心配はしていなかったけど。二人の最小限の着替えなどは、先に準備をしてもらって僕のデイバックに入れて背負った。
 僕は初めてのツーリング。響子コーチは何度か経験がある。泊まりでの経験もあるというから、僕は誰と言ったのかを聞いた。
「あ~チームで複数名と……」
「僕は初体験なので、よろしくお願いします」複数名と……の先は、僕にとって完全に地雷だと判断して聞かなかった。
 僕たちはバイクを分解して、輪行バッグに入れて電車で小田原まで出て、小田原から自転車で一碧湖まで向かう。湖のそばのホテルで1泊し、違うルートで小田原まで戻り、電車で家に帰るルートを計画した。
 自転車で走る時間は、予定で片道4~5時間。片道60キロだ。
 ルートは響子コーチの意見で、行きにキツイと帰りがヤバいから、行きに海沿い、帰りは山越えとなった。
 実際問題としては、二人ともトライアスロンチームでトレーニングの継続はしているし、どっちもアスリートって感じなので心配はしていない。僕はツーリング未経験だけど毎朝1時間走っているし。
 響子コーチは僕の方が不慣れだから前を走れと言った。危険なのは後ろだから響子コーチに前を走ってもらいたかったけれど、上手い言い方をしないと聞いてくれない。
 品川駅で待ち合わせをして、僕の方が早く着いたので待っていると、大きな輪行バッグを担いだ響子コーチが来た。
 当然僕が持つと言ったのだけれど、自分の分は自分で持つのが最低限のアスリート根性だと言うので、せめて響子コーチのデイバッグを僕が持つ事で合意が取れた。
 東海道本線はグリーン車を使い、電車の中から僕はウキウキで、本当ならば駅弁とかを二人で食べたかったのだけれど、響子コーチがおにぎりを二人分作ってきてくれたので、当然そっちの方が100倍良い。
 1時間半くらいの電車の中は、これから行く海外留学の話とか、響子コーチのその後の展望なんかも聞かせてもらって楽しかった。

「響子コーチ。僕はツーリング初めてだし、長距離のバイクも初めてなのでペースがわかりません」
「サイクルコンピューターの指示に従えば大丈夫だよ」
「もしですよ?サイクルコンピューターの指示に従う事に集中し過ぎて、転んだりバテたりしたら困ります」
「私も後ろにいるし、声もかけるよ」
「慣れるまでの間だけでも、リードしてもらえませんか?」
 こうして僕は響子コーチの後ろを走る事になった。真理雄がいなくても、僕だってこのくらいの事は出来る。

 小田原に着いて、バイクを組み立てて、僕らは走り出した。
 海沿いを走るのは気持ちが良いけれど、何より予定外に最高なのは、ずっと響子コーチのお尻を見ながら走れる事だ。
 ピタッとしたヒザ上までのピンクのサイクルウェアを身に着けた響子コーチのお尻は、それはそれはもう……ごちそうだ。
 何度か途中、慣れたなら交代と言われたけれどお断りをした。
 熱海について海鮮丼がおいしいと評判のお店に入った。
 白地に薄いピンクで模様が入ったサイクルウェアを着た、本当にキュートな響子コーチが、リンゴジュースの入ったグラスを持って言った。「おつかれ~」
「お疲れ様です。今日はありがとうございます。もう本当に幸せです」
「ははは、大げさだねぇ、悠太君は」
「まだ25%くらいしか走っていないけれど、ちょっとお尻が痛いです」
「ああ、教えてあげればよかったね。お股にジェルを塗っておくと結構楽だよ。擦れる事がないからね」
「え?響子コーチはお股にジェルを塗ってるんですか?」
「うん。チームで塗ってもらってから、楽だな~って思っていつも塗ってるよ」
「え?……塗ってもらってから?」
「ああ、ええと、教えてもらってから?」
「ビックリしましたよ。チームの誰かに、塗ってもらったのかと」
「ははは、ごめんごめん。地魚丼が楽しみだね」
 海鮮丼も美味しかったし、何よりずっと響子コーチといられる事が、本当に幸せだ。 
 ご飯を食べ終わって、予定より早く14時ころにはホテルに着いた。
 チェックインの時に、響子コーチの名前で予約してくれてあったので、僕はラウンジで待っていた。
「お待たせ、行こう」鍵をもらった響子コーチが言った。僕は響子コーチにくっついて、歩いていた。
「ここだね。響子コーチは部屋の鍵を開けた」
「響子コーチ。僕の鍵は?」
「え?同じ部屋じゃ嫌だった?」
 僕は心臓が止まりそうになった。「いやいやいや、嫌じゃないです。いやじゃじゃいうおえない」
「はははは。どうした?何言ってるんだかわかんないよ?」
 僕はドキドキで口がうまく回らなくなっていた。
「悠太君、着替えてから湖回りを散歩しようよ」
 着替えて、着替えてって、着替えてって、同じ部屋……
 響子コーチは部屋に入り、ものすごくドキドキしている僕の横を抜けて、バスルームに入って着替えをさっさと終わらせた。
 そうだよなぁ~。僕もバスルームで着替えを終わらせた。

 二人で静かな湖の周りを歩いて、そこでも色んな話をした。一緒にいられるだけで、僕は本当に幸せだ。
 二人で夕飯を食べて、大浴場に行って疲れを流して部屋に戻った。
 僕は先に戻って、ベッドの上で響子コーチのお尻を思い出していた。そうだ……中学生のころ健治にもらった?響子コーチの四つん這いの写真のお尻をおかずにして、僕は今まで何回の一人エッチをしたんだろう?本当に幸せだなぁ~

 ――ガチャ
「早かったねぇ。大きなお風呂は気持ちいいね」響子コーチがホテルの浴衣を着て戻ってきた。荷物を減らす為、パジャマなどは持ってきていない。
「……カワイイ」僕は思わず、心の声が漏れてしまった。
「ははは、ありがとう。悠太君も似合うね。悠太君。私、売店で地元のワインを買ってきてしまったんだけど、飲まない?」
「僕はお酒飲んだ事ないですよ。甘酒以外は。どうなっちゃうんだかわからないから、飲まない方が良いと思います」
「なぁに?どうなっちゃうんだかわからないって。変な悠太君。じゃあ一人でいただいちゃおうかな」
 響子コーチはワインを。僕はスポーツドリンクで乾杯した。
 響子コーチとは話す事が尽きない。自分たちの事だけじゃなくて、真理雄と冴子さんの結婚生活の事や健治の乱れた学生生活、その他色んな会話がある。
 響子コーチはワインの中くらいの瓶を一人で空けると、楽しかったねと言ってベッドにドサっと仰向けに寝転んだ。
 僕も響子コーチの隣のベッドに座った。気が付くと響子コーチは、腕を顔の上に乗せて、寝息を立てていた。
 浴衣は少しはだけて、響子コーチの太ももが見える。僕はすごくドキドキしている。でも、僕は中学生のころから、もっと脚の付け根の方まで響子コーチの太ももは見ている。なのに今日は、はだけた浴衣の隙間から見える響子コーチの太ももに、どうしようもないくらいドキドキしている。僕は気持ちを落ち着けるために、バルコニーに出た。とても静かな場所で、無音の音が聞こえる。真理雄が前に言っていた、自分の血流の音だと思う。僕の身体はこうやって僕が気が付かない時も、身体中に血を循環させてくれている。響子コーチには健康でいて欲しいと思った。今日もちゃんと心臓の薬は持ってきているのかな?心配になった。

 僕は部屋に戻って、響子コーチの胸元を見た。響子コーチはネックレス型の薬入れに、心臓の薬を入れている。僕ははだけた浴衣の胸元を、もう少しだけめくった。ペンダントが見えた。僕は良かったと思うのと同じタイミングで、少しめくった胸元に、響子コーチのピンク色の小さな乳首を見つけてしまった。すぐに浴衣を戻さなきゃって思っているのに、手が動かない。それどころか僕の脳からの指示とは反対に、僕はもう少しだけ浴衣をめくっている。響子コーチの胸があらわになって、小さめだけどキレイな形の乳房が二つと、そこにキレイな乳首が二つ付いている。
 ダメだ、絶対ダメだ、こんな変体行為は絶対ダメだ。嫌われちゃう。
 僕は響子コーチの胸に顔を近づけた。響子コーチの匂いを嗅いだ。僕の中に響子コーチが充満していく。大好きだ。響子コーチが大好きだ。だからこんなのダメだ。僕は唇を響子コーチの乳首に重ねた。
「んん~?悠太君どうした?」響子コーチが目を覚ました、僕は慌てた。
「バルコニーから戻ってきたら、響子コーチの浴衣がはだけて、胸が見えそうだったから、直そうと思って、そうしたら響子コーチが、目を覚まして、それで」僕は必死に言い訳をした。
「ああ、ありがとうね。寝相良くないからね~私。今日は荷物減らすために、昼間用のスポーツブラしか持ってきてないから、付けてないんだよ」響子コーチはあっけらかんと言った。
「ま、もう、見えちゃったらどうするんですか?」僕はそっぽを向いて言った。
「見たいの?」響子コーチが言った。
「それは、当たり前じゃないですか!見たいに決まってる!」僕はちょっと怒ったように言った。
 響子コーチは両手で自分の浴衣を開いた。「いいよ」響子コーチの乳房があらわになった。僕は目が離せなくなっている。
「はははは。そんなマジマジと見られると照れるよ~」なんか響子コーチのテンションがおかしい。
「そ、そ、そんな事、僕だって男なんだから、だ、だ、えめであいうす」
「ははは、日本語がおかしくなってるよ?悠太君がとっても立派な男だって事は知ってるよ?あの夜の事忘れたの?」
「わ。わ。忘れる訳、訳ないじゃないですか!毎日、毎時間、毎分思い出してますよ!」
「はははは、そうかそうか。おい悠太君、もっと近こう寄れ」響子コーチは僕を手招きした。絶対に変だ。隠しカメラとかあってドッキリとかなのか?
「もう、そんな近くにって、行ったら、どうなっちゃ、どうなうか」
「ははははは、何言ってるのかわからんぞ?早う、近こう寄れ」僕は響子コーチのベッドに座った。その瞬間に響子コーチは僕の頭を抱きかかえて、胸に抱きしめた。今まで何度か抱きしめてもらった事はあるけれど、生の胸に抱きしめられるのは初めてだ。
「ねえ悠太君……私の事、好きなんだっけ?」
「もう、そんな事、大好きですよ、もう大好きです!」
「ははは、じゃあ、私の胸にキスしたい?」
「したいですよ!」
「じゃあしてもいいよ。ほら」僕の頭を少し離して、僕の唇に響子コーチの乳首を当ててきた。僕は我慢できなくなって、響子コーチの乳首にキスをした。
「……ウッ……んん」響子コーチは少しのうめき声を上げた。
「悠太君、おちんちん出して」
 もう僕は壊れた。すでにビンビンに勃起している男根を出した。僕を仰向けに寝かせると、響子コーチは僕の男根を咥えこんだ。
「ウ……」僕は声が出てしまった。
「きょ、響子コーチ……」僕は言った。
 
 ――――

 スーピー スーピー
 動きが止まった響子コーチから小さなイビキが聞こえてきた。僕は両手で顔を隠して笑い出した。どんどんおかしくなって、1人で勃起させたままのおちんちんを出した「ウルトラ間抜け」な状態で大笑いしてしまった。
 笑い涙を拭いて、僕は起き上がって、響子コーチをかけ毛布をめくったベッドに寝かせて、おでこにキスをしてベッドから降りた。振り返ってもう一度ベッドに戻り、そっと浴衣を開いて乳首にも、もう一度だけキスをした。

 僕はテーブルの上を片づけた。響子コーチが飲んだワインの空瓶を見ると、小さな文字で「一般的なワインよりアルコール度数が高い為、飲酒にはご注意ください」と書かれていた。
「もう外でお酒を飲む事は禁止したいな……」僕は笑いながらつぶやいた。
 
 部屋の電気を消して、ベッドに入ったが、それはなかなか眠れる訳がない夜だった。

 朝起きると響子コーチは起きていて、かなり元気そうだ。
「おはよう悠太君!昨日は寝ちゃったんだね。ごめんね、ゆっくり話す機会だったのに」
「何にも覚えていないんですか?いつもあんな風にお酒飲んで寝ちゃったり、記憶無くしたりするんですか?」
「ないない。寝た事も、記憶をなくした事もない。イビキうるさかった?」僕は笑った。響子コーチは「なになに?」と聞いてきたけど、何でもないと答えておいた。

 次の日は朝早めに出て、小さな峠を越えて修善寺で響子コーチの留学の安全祈願をして、狩野川沿いを走り、本格的な峠を登り、芦ノ湖に出て、箱根でお土産を買って、小田原に戻った。
 ほぼ予定通りの時間で到着して、輪行バッグに自転車を詰めて、電車に乗った。
 僕は電車の中で、本当に楽しかった事を伝えて、心からお礼を言った。
 ツーリングに行って、そんなにお礼を言われるのは変だよと響子コーチは言ったけれど、僕には本当に幸せな二日間だった。お尻もおっぱいも。

 家に戻って片づけをしていると、なんの間違えでこんなことが起こったのかわからないけれど、僕のカバンに響子コーチの1日目に着ていた下着が入っていた。
 寝る前に響子コーチからSNSで「洗濯物を忘れてきたみたい」という連絡があったので、スポーツブラはなぜか僕の荷物に入っていたので、洗濯して渡すと伝えた。パンティの方には触れなかった。僕はその夜、そのパンティと昨夜の記憶で3回一人エッチをした。
 
 響子コーチの留学先への旅立ちの日、どうしても空港で見送りがしたかった。親も来るからと言われたけれど、それでもどうしても行きたかった。
 響子コーチは親御さんの車で空港まで向かった。僕は電車を乗り継ぎ予定の2時間前には空港に到着していた。

 親御さんが見ている前で、握手をしてくれた響子コーチの手を両手で握って僕は言った。
「響子コーチへの想いは何にも変わりません。僕が14歳だったあの夏から、何1つ変わっていません。響子コーチが大好きです。言葉にすると、僕は響子コーチが好きです。大好きです。これ以外の言葉が見当たりません。僕は響子コーチが幸せである事を望んでいるし、響子コーチが嫌だと感じる全てを、響子コーチの周囲から排除したい。そしてもし叶うのであれば、響子コーチが僕を好きになってくれると、これほど素敵な事はないです。この気持ちはもう、中学生の時から何も変わっていません。だから、とにかく身体に気を付けてください。僕は響子コーチに恥じない毎日を送ります。待ってます。響子コーチにすべてをささげて待っています」
 
 響子コーチのお父さんとお母さん、お兄さんとお姉さんは驚いていた。響子コーチは照れくさそうな顔をしていた。
「わかったよ。身体には気を付けるね。悠太君も無理して倒れたりしないでね。しばらくの間は悠太君が倒れても、助けてあげられないんだからね」そう言うと、ご両親に手を振ってゲートへと消えていった。僕はずっと見送った。
 響子コーチが見えなくなって、屋上で飛行機を見送ろうと思っていたら、響子コーチのお父さんに声をかけられた。
「安田君だったね。良かったら一緒にコーヒーでも飲まないかい?」響子コーチの家族全員が僕を見た。
「でも響子コーチの乗った飛行機を屋上で……」僕が言いかけると遮られた。
「響子からは見えないから。さあ行こう」響子コーチのお父さんは、響子コーチのようにドライだ。

 響子コーチのご家族との対話は、想像よりも何百倍も楽しかった。
「安田君、え~と?響子とはどこで?」
「はい。響子コーチが赴任したスイミングスクールの選手コースです」
「ああ、大学生の時にアルバイトをしていたスクールの。選手だったのかい?」
「はい、初めはブレスト、えぇと、平泳ぎの選手でしたが、響子コーチに勧められて自由形に転向しました」
「ほうほう、速かったのかい?」
「いえ、残念ですが僕には才能がなく、全国で7位どまりでした」
「それはすごいね。響子は全国大会に出場どころか、地方大会だって参加賞だったんだから」響子コーチのお父さんは、コーヒーを一口飲んで続けた。
「それはそうと、好きとかなんとか言っていたけど、あれは?」
「はい。僕は14歳の時に響子コーチに恋をしました、それが6年たった今でも続いています。響子コーチにはフラれっぱなしですが、迷惑にならない範囲で、あきらめずに好きでい続けています」お父さんは、小さく数回うなずきながら、もう一口コーヒーを飲みながら言った。
「そうか。いったいアレの何が良いんだね?」
「はい、僕を幸せにしてくれるところです。僕は響子コーチといると幸せになります。ですが僕が響子コーチを幸せにする方法を知りません。だから僕は響子コーチが選ぶ道を邪魔せず応援して、時には先回りして雑草を抜いたり、道を踏み固めたり出来たら良いなと思っています」
 お姉さんが口をはさんだ。「検査入院の時に毎日病院来てたアレでしょ」
 お母さんとお兄さんが言った。「ああ、アレか」
 お父さんがうなずいてから僕に言った。「で、アレのどこがいいんだい?」
「響子コーチといると、僕は幸せになります。響子コーチの声は僕を……」
 
 こんなやり取りが続いた後で、響子コーチの子供の頃の話や、お兄さんやお姉さんから聞いた、妹としての響子コーチの話が最高にチャーミングだった。
 帰りはご家族の車で僕の家まで送ってもらった。
 帰りの車の中でも、響子コーチの事や、僕の大学生活の話など、色々な事を話した。

 真理雄に今日あった事をSNSで報告すると、「実家に遊びに行きな」と短文が返ってきた。真理雄は一度ロックオンすると、絶対に離さないから怖いと思った。僕は響子コーチの実家をロックオンする事に決めた。


< 8 / 12 >

この作品をシェア

pagetop