戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「ここは……?」


 突然部屋の景色が変わった。いや、恐らく先ほどの手紙には転移の魔法が施されていたのだろう。ということは、ここは魔塔内の別の部屋というわけだ。

 左右の壁には壁の高さの本棚が並び、ところどころ雑然としつつも整理整頓された印象を受ける。大きな窓の前に広いデスクとデスクチェアが置かれており、部屋の中心にはソファとローテーブルが配置されている。

 あちこちの部署の雑用を押し付けられ、いろんな階に脚を運ぶシルファであるが、この部屋に来るのは初めてだ。一体どこなのだろう。

 カバンを抱きしめる力を強めていると、カタンと音がして続き部屋から一人の男性が姿を現した。

 サラリとした銀髪に、エメラルドの瞳。丸い金縁の眼鏡がよく似合う隙のない無表情な男性だ。パリッとした燕尾服を着こなしていて几帳面そうな面持ちをしている。歳はシルファよりも少し上だろうか。


「突然お呼び立てして申し訳ございません」

「い、いえ……」


 戸惑いながらも何とか声を絞り出し、指の力を強める。そして、かさりとカバンとは異なる質感に触れ、ようやく手紙を手にしたままだということに気がついた。

 銀髪の男性に視線を向けると、彼は静かに頷いた。読め、ということなのだろう。

 シルファは恐る恐る封を開け、中から一枚の便箋を取り出して広げた。

 そこにはシルファの名前と、魔塔の最上階へ来るようにという一言、そして最後に手紙の送り主の名前が記されていた。


「ルーカス・オルディル……って、えっ!? ま、まさか……魔塔の最高責任者のオルディル卿!?」




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