戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 手紙を何通送っても、一通も返事が届かないのだ。

 もしかすると、魔塔の検閲にでも引っかかってシルファの元に届いていないのではないか。そう思って、娘のフローラにも手紙を書かせた。

 そしてようやく返事が来たかと思えば、魔塔の主であるルーカス・オルディルからで腰を抜かしかけた。
 そこには怒りを滲ませた文字が書き連ねられており、これ以上シルファに関わればただではおかないと明記されていた。今後一切の関わりを断つことを条件にシルファを戸籍ごと買い取ったのだから、その契約を反故にするならば、支払った代金を全額返却するようにとも書かれていた。

 そんな大金はもう、この家にはない。

 きっと溢れるほどにお金を持っているだろうに、生活するのもギリギリの状態に立たされているフレデリカたちに救いの手を差し伸べようとしないなんて、人の血が通っているとは思えなかった。ましてや、さらに金銭を巻き上げようとするなんて。


(恩を仇で返すなんて、なんて薄情な子なのかしら)


 フレデリカがイライラとデスクを指で叩いていると、ノックもなしに部屋の扉が開かれた。


「お母様ぁ、私もうこのドレスに飽きちゃったわ。新しいドレスが欲しいの」


 瞳を潤ませながら呑気にそんなことを言うのは、実の娘のフローラだ。





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