戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「……チッ、分かったわよ」

「ええっ、お母様!?」


 一人空気が読めずに不満げなフローラを連れて、フレデリカはそそくさと魔塔を後にした。


「どいつもこいつも役に立たない……! 好き勝手に言ってくれるじゃない。今に見てなさいよ」


 フレデリカはガチガチと親指の爪を噛みながら足早に路地裏へと入っていく。

 大通りは人の往来が活発だが、一本裏道に入れば人数はグンと減る。
 フレデリカはあちこちの商会の支払いを踏み倒しており、貸金業者からも督促される身であるため、あまり大きな顔をして大通りを歩くことはできない。路地裏は人目を避けるにはもってこいなのだ。


「ねえねえ、お母様。どうしてお姉様と会えないの? 私、早く魔塔の最高責任者様の元へ行きたいわ。きっと素敵な殿方に違いないもの! それに、せっかく街に出てきたのだから、いつものドレスショップでお買い物しましょうよう」


 フレデリカの後ろから、唇を尖らせたフローラが不満げに追ってくる。

 どうしてシルファと会えないのか? そんなもの自分が知りたい。

 それに、フローラが行きたいと言うドレスショップは前回の買い物の料金をまだ支払い終わっていない。今顔を出すわけにはいかないのだ。

 せっかく借金返済の光明が差したと思ったのに、当てが外れてしまったフレデリカの苛立ちは収まらない。長く暗いトンネルの出口が見えたと思ったら、土砂崩れで出口が埋まってしまったような気分だ。


「すみません、少しお話よろしいでしょうか?」

「誰っ!?」


 さて、どうやって今月分の支払いを乗り切ろうかと頭を痛めていると、物陰から突然声をかけられた。





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