戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 フレデリカは警戒心を露わにし、キョトンと目を瞬くフローラを後ろ手に隠した。


「ふふ、そう警戒しないでください。きっと、私たちは良きパートナーとなることができる」

「は? 一体何を言っているの?」


 物陰から出てきたのは、人好きのする柔和な笑みを携えた男だった。
 ニコニコと微笑んではいるが、どこか胡散臭さを感じる。


「この話はあなたたちにとっても悪い話じゃない。さあ、場所を移すとしましょうか、カーソン子爵夫人」

「あ、あなた……どうして私の名を」


 キッと睨みつけるが、相手はたじろぐ様子もない。

 美味しい話には裏がある。
 それはこれまで散々痛い目を見て知っている。

 だが、もうフレデリカは崖っぷちに立たされている。この男を信じるかどうかは後回しにして、まずは話の詳細を聞いてみてもいいかもしれない。


「……いいわ。ただし私一人で話を聞きましょう」


 チラリと背に隠したフローラに視線を向ける。
 どんな危険が潜むか分からないところに、可愛い娘を連れていくわけにはいかない。

 状況を理解できていないフローラは、パチパチと桃色の丸い目を瞬いている。


「いいでしょう。では、後ほど。場所はこちらの紙に書いてあります」


 まるでこうなることを見越していたかのように、男は胸ポケットから一枚の紙片を取り出した。フレデリカは奪い取るようにその紙片を手にして一瞥した。


「……分かったわ。一時間後にこの場所に行きましょう」

「前向きな返答に感謝します。それでは、良き取引をいたしましょう」


 胡散臭い笑みを深め、男は不気味な笑い声を響かせながら路地裏の影に消えていった。





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