戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「開放市を実施する頃には特許も降りているだろう。春には実用化をして製品として売り出したい。その前に顧客の生の意見を聞くことができるいい機会だ。エリオットと、もちろん俺もフォローする。どうだ?」


 窺うように顔を覗き込まれ、慌てて何度も頷いた。


「や、やりたいです! 嬉しい……私、頑張ります!」


 頬を上気させて食い気味に答えたシルファに、ルーカスは一瞬驚いた様子で目を瞬いてから快活な笑い声を上げた。


「ははっ! いい心意気だ。エリオット、出店申請をしておいてくれ。手軽な魔道具だから多くの客の手に渡るように数を揃えておかねばならんな。開放市まではまだ時間があるが、少しずつ作り溜めをしていこう」

「はいっ! よろしくお願いします!」


 実際に回路を刻むのはルーカスになるのだが、土台となる羽ペンを用意したり、回路を刻んだ後の魔力の揺らぎを吸い取って整えたりと、シルファにもできることはたくさんある。それはここ数ヶ月、魔塔の最上階で仕事をしてきた成果として、確かにシルファの中に根付いている。

 意気込むシルファの頭を優しく撫でてから、ルーカスは「ちょうどいい、休憩を取ろう」とソファに腰を下ろした。

 即座にエリオットがキッチンに消えていったので、お茶と茶菓子の用意に向かったのだろう。手伝おうかと思ったが、ルーカスに手招きされたので彼の隣に座った。


「実はな、近々視察で港町のルビトに行こうと考えている」

「えっ!? 魔塔を離れて大丈夫なのですか?」


 予期せぬ話を切り出され、思わずシルファは目を見開いた。





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