戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「ああ、これを見てくれ」


 ルーカスが取り出した分厚い紙の束を受け取る。表紙には調査報告書と書かれている。

 パラパラと紙を捲って内容を確認すると、どうやらメンテナンス依頼や魔導具の利用状況についての調査結果がまとめられているようだ。


「メンテナンス依頼件数が増えた時に気になってエリオットに調べさせた。地域別でメンテナンスの依頼数を算出したところ、ルビトがここ数年で魔導具の不具合が急増していることが分かった」


 トン、とルーカスが指差したページに視線を落とす。
 地域別にメンテナンスの依頼件数がグラフ化されており、ルビトだけがグラフが突き抜けている。確かに、これは明らかにおかしい。


「メンテナンス依頼が落ち着いている今のうちに、ルビトの実態を探りたい。シルファ、君も着いてきてくれないか?」

「え……私もご一緒していいのですか?」


 ポカンと惚けるシルファをおかしそうに笑いながらルーカスが見つめる。


「当たり前だ。君は俺の妻だろう」

「――っ!」


 そうだ。シルファは今、ルーカスの妻なのだ。

 胸に熱いものが込み上げ、息をひとつ吐いてからシルファは満面の笑みを浮かべた。


「はい、私も連れていってください」

「よし、せっかくだから港町で視察と評してデートでもするか」

「デッ……!?」

「ああ、あと最低でも一泊はする」

「泊まり!?」

「お茶の用意ができましたよ」


 ルーカスに爆弾を投下されて固まっているシルファの前に、カタン、とティーカップが置かれた。小ぶりな花が描かれた可愛いカップは、シルファ専用のものとしてすっかり定着している。


「ちなみに私も同行します。ルーカス様、デートは仕事を片付けてからですからね」

「分かっている。シルファとのデートのために、さっさと片を付けてやる」


 動機が随分と不純なように聞こえるが、ルーカスはやる気十分のようだ。





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