戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 思わずギュッと目を閉じ、繋いだ手に力を込める。シルファに応えるようにルーカスも握り返してきてくれて、彼がそこにいるのだと、存在を強く感じて安心する。

 そして魔法陣に引き込まれるような感覚と、一瞬の浮遊感に襲われ、次に目を開いた時には景色が変わっていた。


「着いたぞ」


 ルーカスの声を合図に、止めていた息を吐き出す。それから胸いっぱいに空気を吸い込むと、微かに磯の香りがした。

 ゆっくり目を瞬きながら周囲を見渡すと、見知らぬ部屋の中にいた。


「ここは町役場の一室だ。事前に訪問することは伝えてあるから安心しろ。今日はもう夜だから、並びにある宿に向かおう」


 どうやらこの場所は魔導具を管理する部屋のようだ。新しく仕入れられた魔導具や、不具合の調査依頼に持ち込まれた魔導具が棚に並べられている。

 ルーカスは何度かここに訪れたことがあるようで、迷うことなく役場の廊下を進んで外に出た。初訪問となるシルファはキョロキョロと辺りを見回しながら、エリオットと共にルーカスの後に続く。


「宿もすでにエリオットが宿泊の手配をしている。二室しか空きがなかったのでな。エリオットが一室、俺とシルファで一室だ」

「えっ!?」


 想定外の部屋割りに、思わずシルファは素っ頓狂な声を上げてしまい、慌てて口を噤んだ。
 対するルーカスはキョトンと目を瞬いている。


「どうした? 俺たちは夫婦なのだから同室なのは当然だろう」

「そ、そうですね……?」





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