戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「おい、何か良くないことを考えているだろう」

「えっ」


 深くて暗い思考の海に沈みかけていたシルファを、ルーカスが引き上げてくれた。

 目を瞬くシルファに、ルーカスは心配そうな表情を向ける。


「夜の闇に吸い込まれていきそうだったぞ」

「あ……」


 ルーカスは未だぼんやりとしているシルファの手を引き、ベッドに腰掛けさせた。


「何か心配事があるのなら、遠慮なく俺を頼れ。何をそんなに不安に思う?」


 黄金色の瞳に見据えられ、シルファの瞳が揺れる。


(元の姿に戻ったら、私の役割はもう終わりなのかなんて……聞けないわよね)


 誤魔化すように微笑を浮かべると、ルーカスはボリボリと頭を掻いてドスッとシルファの隣に腰掛けた。


「まったく……シルファは安心して俺の気持ちを享受していればそれでいい。元の姿に戻れたら、一晩中愛を囁いてやる。もういいと言われてもやめてやらないから覚悟しておくことだ」

「えっ!?」


 ルーカスはニヤリと口角を上げながら、スッと手を伸ばしてシルファの頬を撫でた。そして、輪郭をなぞるように細い指が下唇をなぞる。

 ドキドキと、心臓が飛び出そうなほどうるさい。

 縫い止められたようにルーカスから視線を逸らせないでいると、ルーカスの顔がゆっくりと近づいてきた。
 シルファは導かれるように、そっと瞳を閉じて身体を彼の方へと傾けた。

 フレデリカから手紙が届いた夜のように、二人は指越しに口付けを交わした。


「……シルファ」


 熱い吐息がかかり、思わずふるりと身体が震えた。





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