戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 少年のものとは思えないほど、艶のある声。
 名前を呼ばれただけなのに、好きだと囁かれたような気がして、ギュッと胸が詰まった。

 そっと目を開いて上目遣いでルーカスを見つめると、シルファの視線に気づいた彼は歯を見せて笑いながらコツンと額を重ねてきた。

 理由は分からないが、ルーカスは初対面の時からシルファに好意的だった。
 シルファの記憶では、あの日魔塔の最上階で顔を合わせた時が初対面だったはずだ。

 魔塔を管理する者として、ルーカスがシルファを知っていたというのは理解ができるが、どうもそれよりずっと前からシルファを知っているような口ぶりをする時がある。

 そしてシルファには、一つ心当たりがあった。彼との本当の出会いはひょっとすると――


(知りたい……私を選んだ本当の理由を……)


 シルファがルーカスの退行魔法の鎖を解くためにも、二人の未来を見据えるためにも、今が聞くべき時なのだと、そう思った。


「ルーカス」

「なんだ?」


 膝の上でギュッと両手を握りしめると、安心させるようにルーカスが手を重ねてくれる。

 いつもシルファが不安を感じていると、ルーカスは急かさずに足並みを揃えて寄り添ってくれる。そんな彼の優しいところがたまらなく愛おしい。


「ルーカスは、以前から私を知っていたのですよね?」

「……どうしてそう思う?」


 ルーカスの黄金色の瞳は、ただ真っ直ぐにシルファを見つめている。


「私の魔導ランプに、ルーカスの太陽のシンボルを見つけました」

「……なるほど、流石に気づいたか」


 ルーカスは少し照れくさそうに頬を掻いた。そして両手で包み込むように、改めてシルファの手を握った。


「そうだ。シルファの言う通り、俺たちが初めて出会ったのは十五年前の開放市だ」


 ルーカスは静かに十五年前のことを話し始めた。





 ◇

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