戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 一度教わったことは即座に習得し、それだけでなく、先輩魔導師が提唱して実装に向けて検証を重ねていた回路の不備を一目見ただけで指摘した。その上で、より洗練された回路に改善して、どんどんと特許を取得していった。

 ルーカスに仕事や成果を奪われた先輩魔導師たちが、彼を疎みやっかみ始めるのにさほど時間はかからなかった。当時の魔塔は年功序列で勤務歴の長い魔導師が尊ばれる環境であったのもよくなかった。

 ルーカスが魔塔入りしてから一年後には、回路を刻むための専用の魔導具を隠されることは日常茶飯事になっていたし、部品を隠されたり、わざと違う納期を知らされたりと、孤立無援の状態となってしまった。遂には魔塔の人間が倦厭しがちな書類仕事を押し付けられるようになった。

 ルーカスはただ、誰かの生活を少し便利にするような、使っていて思わず顔が綻ぶような、そんな魔導具を開発したいと思っていただけなのだが、それさえも叶わない状態に陥ってしまい、ひどく落胆した。

 回ってくる仕事といえば、温風機や保冷庫といったすでに普及している魔導具の量産や改良であった。もちろんそれも大切な仕事であるとは重々承知していたが、新たな魔道具の開発に携わることができず、一人で黙々と同じ作業を繰り返す日々はひどく色褪せて見えた。

 そんな日々が二年も続けば、ルーカスの心には暗い影が落ち、希望に満ち溢れて輝いていた黄金色の瞳も翳ってしまったていた。


 そんなある日、ルーカスは魔塔内でとある貼り紙を見つけた。





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