戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 二年に一度、魔塔主催で開催される開放市の出展募集の貼り紙だった。去年は大寒波により急遽延期となり、一年繰り越しての開催となっていた。

 貼り紙には、所属部署や勤続年数に関わらず、誰でも自由に参加できると記載されていた。

 ルーカスはすぐさま申し込みをして、久しぶりに魔導具の開発に没頭した。

 需要があるかは分からない。けれど、自分が作りたいと思うものをどんどん形にしていった。


 そして訪れた開放市当日。


「……ま、こんなことだろうと思ったよ」


 ルーカスに割り当てられた区画は、最も人通りが少ない入り組んだ先の角地であった。

 魔塔正面のメイン広場を中心に目玉の店舗が出店されている。もちろん開放市に訪れる人々もその区画に集中してしまう。
 塔の裏手で通路から外れた日の光も届かない場所に、果たして客は訪れるのだろうか。


(ちくしょう。こんなことが続くなら、魔塔を辞めて家で子供の頃のように魔導具を触っていた方がずっとマシだ)


 大切に作り上げた魔導具たちをとりあえずは陳列するが、人の子一人訪れる気配はない。風に乗って魔塔正面の広場の楽しげな笑い声が聞こえてくるばかりである。

 ルーカスは胡座を組んで、その上に肘をついて唇を尖らせた。

 これ以上の妨害行為から自衛するために、帽子を目深に被って人の訪れを待つ。


「お母様、あっちにも店がある!」


 太陽がすっかり昇りきり、きっとこのまま誰も訪れないのだろうと半ば諦めかけていた時、メイン通りからよく通る明るい声が聞こえてきた。

 まさかこっちにくるはずがないと、視線を足下に落としていると、帽子のつばで狭まったルーカスの視界に小さくて可愛い靴が飛び込んできた。





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