戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「それから俺はがむしゃらに仕事をして、十八の時に魔塔の責任者の座を勝ち取った。それはもう大変だったよ」


 当時を懐かしむように、ルーカスは表情を和らげた。


「あの日、君が俺の魔導具を必要としてくれて、俺は目が覚めた。自由に魔導具製作ができないことを、周りの環境のせいだと決めつけていた。やれることはあったはずなのに、ただ自らの境遇を恨んで与えられた仕事にのみ注力してきた。結局、もがこうともせずに足を止めていたのは自分だったのだと、ようやく気がついたんだ。挫けそうなことも何度もあった。そんな時、決まって思い出すのは開放市でのやり取りだった。君の笑顔が心の支えだった。誰かの笑顔に繋がるような魔導具を作るんだという原動力だった」


 ルーカスの姿がじわりと歪む。熱いものが込み上げてきて、思わず喉を詰まらせた。


「君の継母が魔塔にやってきた時は驚いたよ。持ち込んできた君の姿絵を見てすぐに気づいた。あの時の女の子だってな。どことなく面影があったんだ。だが、君はあの日の優しげな母親とは違う女に売られようとしていた。どういうことなのか気になってな。エリオットに詳細を調査させて驚いたよ」


 ルーカスは苦虫を噛み潰したような表情をした。


「もっと早くに君を救い出せていたらと、どれほど後悔したことか。だが、君の継母の強欲さは逆に好機だと思った。君を縛り付ける子爵家から開放し、あの日夢だと語ってくれた魔塔に籍を置くことができれば、少しは自由に生きられるのではないかと、そう思った」





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