戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 シルファがルーカスを信じなくてどうするというのか。彼の想いは痛いほどに感じているというのに。

 もし仮に、魔法省の重役が二人の仲を引き裂こうとしてきたとしても、抵抗すればいい。
 シルファには魔力を吸い取り中和することしかできないけれど、この力で相手の魔力を乱すことができれば、魔法の行使を妨害することも叶うかもしれない。

 シルファは毎日コツコツとルーカスの膨大で強力な魔力に触れてきた。着実に、確実に彼の魔力を中和してきた。
 その経験が、シルファの背を押してくれる。魔法が使えないシルファに役割を与えてくれたルーカス。今では魔力を中和するという地味な能力も、少しは好きになれた気がする。

 シルファはグッと集中して、ルーカスの魔力の波を捉えた。

 退行魔法の術式に絡みつく濃密だった魔力は、残すところ根幹の部分のみとなっている。
 もう一層深く潜り込んで、絡みついた魔力痕を引き剥がせば、きっと――

 そこまで深く相手の魔力を探るのは初めてなので、どうしても一歩踏み込むことを躊躇してしまう。

 ルーカスの魔力量は並外れていて、少しの油断で飲み込まれてしまいそうになる。
 一歩間違えれば、強烈な魔力に当てられて明日の調査に支障をきたす可能性だってある。

 最後の魔力を中和するのは、いつもの魔塔の最上階で。


(だから、今日は少しだけ……)


 そう決めて少量の魔力を吸い取り、体内で自らの魔力と混ぜ合わせて中和する。

 手のひらから立ち上る魔力の残滓をぼんやりと見つめながら、ほうっと息を吐いた。

 そして、覚悟を決めてルーカスに向き合う。




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