戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「……まだ日中は暑いですけど、朝方は冷えます。窓を閉めますね」

「ああ、ありがとう」


 トッ、と床に降り立ち、シルファはハンカチを広げて机の上に髪飾りを置いた。

 そして、月明かりが差し込む窓辺に歩み寄る。
 真っ暗な海に夜空の星が映り込んでいて、空と海の境界が分からないほどに溶け合っている。

 胸いっぱいに磯の香りを吸い込んでから、シルファは窓を閉めようと窓枠に手を掛けて視線を下げた。


(うん?)


 シルファたちの部屋は正面扉とは反対側の裏通りに面している。主に漁で獲られた魚を荷車で運搬するために使われていると聞いたが、そこに不自然な人影が見えた気がした。


(こっちを見ていた……? まさか、ね)


 目を瞬いてもう一度見ると、そこには誰もいなかった。

 外は街灯も少なく、薄暗い。きっと見間違いだろう。

 シルファはそう思い直し、両手で窓を閉めてカーテンを引いた。





 ◇

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