戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 翌日、ルーカスとエリオットと共に役場に向かったシルファは、メンテナンスの依頼件数や購入年月日、購入場所などをまとめた資料を睨みつけている。

 宿泊した部屋にはシングルベッドが二つあったのだが、ルーカスが同じベッドでないと熟睡できないとごねたためにベッドを寄せて手を繋いで眠った。

 すやすやと健やかな寝顔が可愛らしくも恨めしく、シルファはドキドキ騒ぐ心臓を抑えて眠るのに苦労した。環境が変わるとどうも緊張してしまっていけない。

 とにかく、わざわざルーカスが魔塔の外に出てまでここにやってきたのだ。
 何かひとつでも収穫を得たいと、それぞれが意気込んでいる。


「ああ、どうしよう……やっぱり見当たらない」

「あれ?」


 凝り固まった肩をグッと伸ばしたタイミングで、とある役場職員の様子が目に入った。シルファたちの作業を手伝ってくれているのだが、どういうわけか青い顔をして書類の山の前でオロオロしている。


「どうかしましたか?」


 ちょうどルーカスとエリオットは別室の資料を確認しに行っている。

 事情だけでも聞いておこうとシルファが声をかけると、役場職員は「ひえっ」と小さく飛び上がってから勢いよくこちらを振り向いた。


「あ……ええと、実は、オルディル卿からお預かりする予定だった書類一式が見当たらず……ああ、紛失したなんて知られたら僕はクビです……」


 ウルウルと目に涙を浮かべる様子は、まるで小動物のようだ。

 シルファより少し年上と見られる、役場の中では若手であろう男性は、この世の終わりだと言わんばかりに肩を落としている。





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