戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「書類……そういえば、今朝宿で書類の確認をしていたような……もしかすると、宿の部屋に置いてきてしまったのかもしれません。すぐ並びですし、私が今から見てきます」

「えっ! そ、そんな……いいのでしょうか?」


 光明が差したと言わんばかりにパァッと顔を輝かせる男性は、随分と感情が表に出やすいたちらしい。

 シルファは思わずクスリと笑みを漏らしながら快諾した。


(本当は、一人で外に出ちゃダメって言われているんだけど……宿はすぐそこだし、ルーカスにもらったブローチを付けているもの。急げば大丈夫よね)


 話を聞けば、このあとすぐに使う書類らしい。真っ白な顔で絶望している役場男性の姿をこれ以上見ていられなかったシルファは、心の中でルーカスに詫びつつ一人で役場を飛び出した。

 宿は役場からも視認できる距離にある。通りは見通しがよく、人の往来も多い。
 部屋の鍵は宿に預けているので、まずは受付によって事情を説明し、部屋で書類を探して役場へ戻らなくてはならない。

 すぐに書類が見つかればいいのだけれど……そう思いながら早足で歩いていると、突然細い路地からゆらりと深くフードを被った人物が現れてシルファの行く手を阻んだ。

 足首まですっぽりと外套で覆われているが、履いている靴はどうやらヒールのようなので、恐らくは女性だろう。全身を隠すような装いに、すれ違う人々も訝しげな視線を向けている。





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