戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「う……ここは?」


 目が覚めたシルファが薄っすらと目を開けると、どうやら談話室と思しき部屋にいるようだった。壁際の棚には新旧様々な魔導具が年代別に陳列されている。

 窓の外は明るく、まだ昼間であることが窺える。気を失っていたのはせいぜい数時間といったところだろうか。
 ここがどこかは分からないが、とにかく逃げなくては。

 そう思って身体を動かそうとして、両手足を縛られていることに気がついた。

 シルファが寝かされていたのは上質なソファの上。手足の自由が効かず、うまく身体を起こすことができなくて焦りの色が浮かぶ。


(フローラとあの人はどこなの?)


 先ほどからこの部屋にはシルファしかいない。
 フローラも、フレデリカも、ここにはいないのだ。


「やあ、ようやく目が覚めたかい」

「な……まさか、あなたが?」


 ギィッと扉を開けて中に入ってきたのは、ニコニコと温和な笑みを浮かべた男――デイモンだった。その後ろに続いてフローラとフレデリカも部屋に入ってくる。


「ねえ、約束通り即金でちょうだいよ」

「ああ、もちろんですとも」


 フレデリカは待ちくたびれたと言わんばかりにガリガリと爪を噛んでいる。
 子爵家の財政が傾き始めた頃からの彼女の癖は、未だに治っていないらしい。

 デイモンが胸ポケットから取り出した小切手をひったくり、血走った目でそこに書かれた金額の桁数を数えている。
 そして満足げに笑みを深めると、顎を上げてシルファを見下した。


「どういうこと……? どうしてここに部長が……」


 シルファの知る限り、この二人に接点はなかったはず。状況を理解できずに困惑して二人の顔を見比べることしかできない。





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