戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「さあて、これからの話をしようじゃないか。何、僕は君を傷つけたくはない。大人しくしてくれさえすれば大切に扱うと誓おう。君のためにたくさんドレスを誂えよう。髪も綺麗に整えて……ああ、学園時代にヘレンが身につけていたドレスのデザインは今でも鮮明に覚えているよ。君にもきっと似合うだろうね……ああ、早く着て見せて欲しいなあ」


 デイモンはうっとりと目を細めながらシルファの頬を撫でる。

 ゾワゾワっと背筋が泡立ち、シルファは懸命にデイモンから距離を取ろうともがいた。


「無駄だよ。君を拘束している縄は特別製でね。素材としては引っ張れば誰でも簡単に引き裂くことができるものなのだが、魔力を通す特別な素材なのだよ。どうだい? びくともしないだろう。魔力を巡らせることでかなりの強度を保つことができるんだ」


 そのような魔導具は聞いたことがない。

 だが、デイモンは魔塔有数の実力者だ。市場に出回らない特別な魔導具を作ることも容易いだろう。

 シルファはギリッと奥歯を噛み締め、ふとあることに思い至った。


(魔力が流れているってことは……吸い取って中和してしまえば、あとはただの千切れやすい縄ってことよね)


 シルファは抵抗をやめて手足に意識を集中させた。

 縄の中を循環するように魔力が流れているのが分かる。
 デイモンに頭や背中を撫でられて集中力が乱れてしまうが、懸命に心を無にして堪える。


(吸い取って……中和する!)


 シルファは身体から中和した二つの魔力が抜け出ていくのを感じた。それと同時に、思い切り両手足に力を入れて、すっかり強度が弱くなった縄を引きちぎった。





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