戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「だが、媚薬の影響で練り上げる魔力量をうまくコントロールできなかったようでな。俺は必要以上の魔力を退行魔法に注ぎ込んでしまったらしい。その結果、術式に過分な魔力を組み込んでしまい、自力で退行魔法を解除できなくなってしまった」


 シルファは絶句した。

 彼の話によると、退行魔法を使ったのが二十三歳の時。それから五年も子供の姿で生きてきたというのだ。


「身体が子供のものであれ、知識や記憶、魔力の含有量については元の状態であったのが不幸中の幸いだった。魔力を膨大に消費する魔法は身体への負担が大きくてできんが、高いところに手が届かないこと以外はさほど生活に苦労はしていない。だが、俺以上に焦りを見せたのが魔法省だった」


 続くルーカスの話によると、魔塔を統べる者が自らの魔法を解除できずに子供の姿となってしまったということはかなり外聞が悪い。その上、子供の姿では子を成すことができない。歴代一の魔導師と謳われるルーカスの血を引く者ができないことは国の損失であると頭を抱えた。

 だが、いつかきっと元の姿に戻る日が来る。
 半ば願望に近いが、そう結論付けた魔法省は、再びルーカスに結婚するようにと干渉してくるようになったという。


「この姿で外に出ることは許されていないからな。俺は五年間この魔塔最上階の研究室に篭りきりの生活をしている。俺が子供の姿になったことは、魔法省によって重要機密事項と位置付けられることになった。だから、見合い相手にわざわざ口外禁止の誓約魔法を施した上でここに送り込んでくるのだ。だが、いつ元に戻れるとも限らない男に嫁ぎたいと思う女はいない。その上、見合い内容は誓約魔法によって口外できないときた。塔を降りた見合い相手は口を噤み、俺の話題を避ける。おまけに誓約魔法のペナルティに怯え、その顔色は真っ青。その様子があらぬ憶測を呼び、次第に俺は冷徹魔導師と畏怖されるようになっていた」


 なるほど、シルファが耳にした噂の元凶はこれだったのだ。

 誓約魔法があったから、お見合いから戻った令嬢たちは皆青ざめた顔で逃げるように魔塔から去っていったのだ。




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