戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 量産されている魔導具でも、その一つ一つが異なる持ち主の手に渡り、その人それぞれの生活を照らしてくれる。本来紡がれたはずの彼らの物語を強制的に打ち切る所業を許せるわけがなかった。

 デイモンは理解できないとでもいうように、軽く肩をすくめた。


「さて、魔導具が魔力を蓄積しすぎると、どうなるか分かりますよね?」


 そして、まるで教鞭に立つような話ぶりで、床に散乱する魔導具に手を伸ばした。棚に陳列されていたものが、天井が抜けた衝撃でいくつも棚から転がり落ちている。


「まさか、貴様……!」

「そのまさかですよ! ここには二十を下らない魔導具が置いてありました。そのどれもが僕が回路に細工したもの。ほんの少しのきっかけで、滞留している魔力はあっという間に暴発するでしょう」


 デイモンが腕を突き出して魔導具をこちらに向けてくる。目を凝らして見ればすぐわかるほどに、魔導具からは明らかに容量を超過した魔力が染み出している。


「チッ、自分ごと自爆するつもりか?」

「どうせ捕まり、罪に問われるのでしたら、ヘレンの元へ行くのも一興。君たちにも旅の共として同行してもらいましょう」

「まずいな、元の姿ならまだしも、子供の姿のままだと身体が俺の全力の魔法に耐えられん。どうすれば……」


 珍しくルーカスの顔に焦りの色が浮かぶ。

 デイモンは先ほどまでの動揺が嘘のように穏やかな表情をしている。いつもシルファに向けていた、遥かずっと先を見ているかのような目だ。


 シルファは瞬時に察した。迷っている暇はない。今なのだと――


「ルーカス!」





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