戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 シルファはルーカスの腰に腕を回してギュッとしがみつくと、手のひらからだけでなく、触れ合う肌全てから彼を縛る退行魔法の魔力を吸い取った。燃えるように熱く濃密な魔力の揺らぎに潜り込み、その全てを両手で掬い上げるように吸収した。

 それは、ガコン、と重く錆びついた錠前が落ちるような感覚だった。

 吸い上げたそばから、練り上げた自らの魔力と混ぜ合わせて中和していく。

 身体が熱い。身体中から中和された魔力が浮き上がり、全身がほんのりと光を放っている。


「シルファ! 君は本当に……最高だ!」


 グッと力強く肩を抱かれたかと思ったら、パァッと白い光が溢れて目を開けていられなくなる。目を閉じる間際、視界の端でデイモンが魔法で床に転がる魔導具を集めて次々に誘爆させていく様子を捉えた。

 来たる大爆発を覚悟してしがみついたルーカスの身体がぐんぐんと大きくなっていく。肩を抱く手が、薄く華奢だった胸板が、みるみるうちにゴツゴツと男らしくなっていく。


「……シルファ、ありがとう。よくやってくれた」

「ルーカス……!」


 先ほどまでと違い、低く身体の芯に響くような声。

 そっと目を開けて見上げると、いつもの優しい黄金色の瞳がシルファを見つめていた。

 スラリと背が高く、手は骨張っていて大きい。太くしっかりとした首に、逞しい腕。


 ルーカスが、退行魔法を解除したのだ。


 これがルーカスの本来の姿なのだと、ようやく、元に戻ることができたのだと胸に熱いものが込み上げてくる。





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