戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 ルーカスはシルファを抱く腕と逆の腕を真っ直ぐにデイモンに向けて伸ばしていた。

 暴発したはずの魔導具たちは、ギュッと不自然に密集して球体を形成している。
 強力な結界で魔導具を押さえているのだとは思うが、中の魔導具が爆発せずに元の形状を保っているのが不思議でならない。


「ど、どうして爆発しない! やわな結界なぞ吹き飛ばすほどの威力があるのだぞ!」


 髪を振り乱して叫ぶデイモンに、ルーカスはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべている。


「やわな結界だと? この俺の結界をやわと言うか。強度はもちろんだが、この結界は中の空気を拒絶している。つまり結界の中は真空状態だというわけだ。空気が無ければ爆発することは叶うまい?」


 ルーカスが手のひらをゆっくり握りしめていくと、魔導具を捉える結界の大きさが徐々に小さくなっていく。中の魔導具もミチミチと音を立てながら圧縮されていく。

 ルーカスが拳をグッと握りしめると同時に、ポシュッと空気が抜けるような小さな破裂音を残して、圧縮された魔導具たちは消滅した。


「な、ななな……! 規格外すぎる……!」

「何を今更。俺は魔塔の最高責任者であり、この王国一の魔導師だぞ」


 ヘナヘナとその場にへたり込んだデイモンは、この数分ですっかりと老け込んだように見える。

 ルーカスが得意げにゆらりと身体を傾けると、濡羽色の髪がサラリと肩から流れ落ちた。不遜な態度だが、随分とさまになる。


「さて、お前には詳しく事情を聞かせてもらい、きちんと法の裁きを受けてもらおうじゃないか」


 パチン、とルーカスが指を鳴らすと、どこからか現れた光の蔓がデイモンを拘束していく。デイモンは抵抗する余力も残っていないようで、大人しく拘束されていく。ブンッとデイモンの下に青白い転移魔法の陣が浮かび上がって、瞬きの間にデイモンは諮問機関へと転送されていった。





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