戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「終わったの……?」

「ああ、実にあっけない」


 そっと見上げたルーカスの表情には、どこか寂しさが滲んでいた。


「あの、助けに来てくれてありがとうございます」

「ん? 妻を助けるのは夫の務めだ。むしろ遅くなってすまなかった。ここはルビトに隣接する奴の領地にある別邸でな。探査を阻害する結界が貼ってあったので見つけるのに手こずってしまった。まったく、その腕をもっと仕事に活かして欲しかったよ」

「そう、だったのですね」


 本当に、人は才があるからといって、それを適切に活かせるとは限らない。
 シルファからすれば、魔法の才に恵まれたデイモンが羨ましかった。

 私利私欲のためでなく、人々の生活に寄り添う魔導具を作るために、その才を使うことができたなら、何かが違っていたのだろうか。


「さて、後始末が大変だな。エリオットが鑑識を呼びにいっている。この屋敷の調査は奴らに任せて、俺たちはひとまずルビトに帰ろう」

「はい」


 ルーカスは転移のために、シルファの両手を優しく包み込んだ。


「なんだか、変な感じです」

「ふ、そうだな」


 昨日まで、シルファがすっぽり包み込んでいた手が、今はシルファの両手を覆い尽くしている。ゴツゴツと骨張っていて、指が長い。男の人の手だ。

 ドキドキしているうちに、ルーカスは「いくぞ」と言って転移魔法を発動した。

 ギュッと目を閉じて、一瞬の浮遊感に襲われる。ふわりと浮いた足が地面を捉えたことを確認し、シルファはゆっくりと瞳を開いた。





< 146 / 154 >

この作品をシェア

pagetop