戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 転移先はルビトの海岸だった。

 日が傾き、白い砂浜がオレンジ色に染められている。
 緩やかに波を打つ音と、頬を優しく撫でる潮風が心地いい。

 夕日の眩しさに目を眇めながら改めて真正面からルーカスと対峙すると、どこか気恥ずかしいような、でも、やっぱりルーカスはルーカスなのだと彼の雰囲気がそう感じさせてくれて安心する。

 ジッとシルファを見つめていたルーカスが、不意にくしゃりと相好を崩した。


「本当に、シルファが無事でよかった」

「ルーカスの髪飾りのおかげです」


 ニコリと微笑むと、握られていた手をグッと引かれ、あっという間にルーカスの腕の中に閉じ込められてしまった。


「ル、ルーカス!?」

「すまない。辛抱が効かなかった。ずっと、こうしたかった」


 ギュウギュウと抱き締める力は、子供のものとは比べ物にならないほど力強い。
 あまりにも力が強いものだから、息が止まりそうになる。

 でも、厚い胸板や骨張った腕に包まれていると、本当に退行魔法を解除して元の姿に戻れたのだと実感できて、じわじわと喜びが込み上げてくる。


「シルファ」

 耳元で名前を囁かれて、腕の中でルーカスを見上げる。

 クリクリと可愛らしかった黄金色の瞳は、キリッと切れ長で色気を滲ませている。





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