戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「シルファ、君も幸せそうで何よりだよ」

「そうね。素敵な夫と同僚を持って、とても幸せよ」


 サイラスの言葉に、シルファは苦笑しながら答えた。

 今やルーカスを冷徹魔導師と揶揄する者はいない。

 ルーカスは魔塔内で堂々とシルファに愛を囁き、慈しみ、蕩けた笑顔を向ける。
 意外なことに、所構わず甘い雰囲気を醸し出す二人を周囲は温かく受け入れた。愛妻家、嫁の尻に敷かれているなど、一気に親しみやすさが増したようだ。

 シルファに対する評価も、デイモンの一件を契機に随分と変わった。

 デイモンが細工した魔導具はまだまだ市井に広がったままであった。
 デイモンの担当した魔導具の記録から該当する魔導具を特定して回収し、回路の修復を行う必要があった。

 その作業を一手に担ったのがシルファとサイラスの二人が所属するメンテナンス部だったのだ。

 毎日大量に持ち込まれる魔導具の余剰な魔力を的確に吸収し、デイモンの細工を紐解いて正しい回路を刻み直す。どちらも二人にしかできない緻密かつ専門的な作業であったのだ。

 これまで最底辺だと馬鹿にされていたメンテナンス部は、すっかり重要な部署の一つとして認められるようになった。

 シルファはメンテナンスの仕事に誇りを持っている。それは今も昔も変わらない。
 だがやはり、周囲に認められて嬉しくないわけがない。

 現に、今回の部署の配置換えでメンテナンス部は地下室ではなく正式に地上階に部屋を用意してもらえることになった。この地下室は、今後は倉庫として使用されることになる。


「片付けは進んでいるか?」

「ルーカス!」





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