戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 すっかり物寂しくなった地下室を見渡して感傷に浸っていると、重い鉄の扉が開いてルーカスがひょっこり顔を出した。

 シルファが駆け寄ると、ルーカスは嬉しそうにシルファを抱きしめた。

 この光景も見慣れたものとなっており、サイラスは胸に小さな痛みを残しつつも、やれやれいつものことかと小さく息を吐く。サイラスはずっと、シルファの幸せを願っている。


「もうこんな時間だったのですね。掃除に夢中で時計を見ていませんでした」

「そうだぞ。一分一秒でも早く会いたくて迎えに来てしまった」


 いつの間にか定時を過ぎていたようで、帰りが遅いシルファをルーカスが痺れを切らして迎えに来てくれたようだ。

 過保護だなあと思いつつも、ルーカスの気持ちは素直に嬉しい。


「じゃあね、サイラス。また明日も頑張りましょう」

「うん、また明日」


 サイラスに手を振り、地下室から出たシルファはルーカスにそっと身を寄せた。


「順調そうだな」

「配置換えの予定日には間に合いそうです。ルーカスも今日の仕事は終わりましたか?」

「ああ、後は当日の細かな導線の確認と魔導具の搬入ぐらいだな」

「いよいよですね」

「楽しみだ」


 忙しい中、魔塔一同で準備を進めてきた開放市が三日後に迫っている。
 シルファも自動インク補充型の羽ペンで出店するため、今から楽しみで仕方がない。


「開放市が無事に終わって、魔塔内の体制も落ち着いたら、ようやく少しゆっくりできそうだ」

「ルーカスがいつ倒れるのかって、気が気じゃありませんでしたよ」

「お互い様だろう」


 シルファの言葉にルーカスは笑うが、決して冗談で言っているわけではない。





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