戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「そ、それは……」


 つまり、ルーカスの庇護下に入ることで、執拗に言い寄ってくるデイモンだけではなく、日々他部署から押し付けられる雑務からも解放されるということか。

 それはなんとも魅力的な誘いに聞こえるではないか。

 実家の後ろ盾もなく、魔力も放出できないシルファにこれ以上の良縁は望めないだろう。

 元より幸せな結婚は諦めていた。一生独り身で、仕事を生き甲斐に魔塔で生きることになるのだろうと、そう思っていた。
 期待して、再び失うぐらいなら、もう家族はいらないと、そう思っていた。

 それならば、シルファを必要としてくれ、かつ双方に利点のある提案をしてくれた彼に乗るのもいいかもしれない。


「それに、シルファ嬢は魔塔に籍を置いていて、実家の子爵家との縁は切れている。貴族特有の付き合いも気にしなくていい。実家に婚姻の承諾を取る必要もない。これ以上にないほど君が適任なのだ」


 前向きに思考が働きかけていたシルファは、ルーカスの言葉に目を見開いた。

 そうだ、シルファを戸籍ごと買い取ったのは、他の誰でもない魔塔の最高責任者――つまり目の前にいるルーカスその人なのだ。

 それはつまり、ルーカスがシルファの身の上を知っているということを表す。


 シルファはゆっくりと目を閉じ、魔塔に籍を置くに至った経緯を思い返した。





 ◇
< 17 / 154 >

この作品をシェア

pagetop