戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 シルファが大事にしてきた書庫の本も売られてしまったし、実の両親との思い出の品もほとんど手元に残らなかった。

 お金がどれだけあっても足りないのであれば、シルファを働きに出せばいいものなのだが、体裁を誰よりも気にするフレデリカは、決してシルファを外に出すことはしなかった。

 なぜなら、シルファは貴族でありながら、魔力を外に放出することができない体質であったからだ。

 普通は体内で練り上げた魔力を呪文や道具を介して外に放出することで、魔法を発動したり、魔導具を作ったりする。
 だが、シルファにはそれができない。
 古くから魔法を重んじる国風であるティアード王国において、それは致命的な欠陥であった。

 どうしてか、物や人から魔力を吸収し、体内の自分の魔力と中和させて昇華することだけはできたのだが、それが何の役に立つのかといつもフレデリカは苛立たしげに爪を噛んでいた。せめて魔法が自由に使えれば、もっと使い道があったというものを、と。

 シルファの実母であるヘレンは、


『あなたの力を必要とする人は、きっといるわ』


 と嫌悪感一つ示すことなくシルファを抱きしめてくれた。

 そんな母は、屋敷の魔導具の調子が悪い時はいつも、シルファに手入れをするように言った。

 古くなったり使えなくなったりすれば新しいものに取り替えればいい。

 貴族の間ではその考えが主流だが、我が子爵家はまだ使えるものを無闇に捨てることはないと、物を大事にする心を教えてくれた。
 だから、どの魔導具も長く使われており、それぞれにたくさんの思い出が詰まっていたのに――

 父のシモンが亡くなってからは、「古びていて見窄らしい」と、大事にしてきた魔導具もまた、フレデリカに売り払われてしまった。




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